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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
38/66

寒くないのですか?レティシア様

街の外れでアリーゼたちと別れると、レティシアは手をぶんぶん振っていた。

「またねアリーゼー!!」

「ええ、また!」

アリーゼが馬車に乗り込む姿を見届けると、レティシアはくるっと振り返り、エマの腕にぴとっとくっつく。

「えへへ、楽しかったー。エマ、帰ろっ」

「はい。風が強いので気をつけてくださいませ」

「あれくらい平気だよー」

そう言いつつも、風で髪がぶわっと舞い上がるレティシアはどう見ても寒そうなのだが、本人はまったく気にしていない。


家へ向かう道中、二人はゆっくり歩いた。

落ち葉が転がり、空はうっすら灰色。秋の冷え込みがじわじわと服の隙間を抜ける。

「エマ、寒いでしょ?ほら」

レティシアは自分の手をコートの袖に押し込んでくる。

「レティシア様の方がずっと寒いと思うのですが…」

「私はだいじょーぶ!」

どう見ても寒さに強いというより無自覚なだけである。


家の扉を開けると、冷たい空気が壁のように流れ出した。

レティシアはぶるっと肩を震わせる。

「うわ、家の中のほうが寒いね!!」

「暖炉に火を入れるまでしばらくかかりそうです…」


エマはすぐキッチンへ向かい、湯を沸かしはじめた。レティシアもあとから入ってくる。

「エマ、なにしてるの?」

「すぐに体を温められるものを作ります。こちらのほうが暖炉より手軽なので」

「おぉ〜なんかすごい!」


エマは温めた布袋をタオルで包み、簡易の温パックにしてテーブルに置いた。

「どうぞレティシア様、手を乗せて」

「わー…あったかい…!」

レティシアは嬉しそうに手を包み込み、ほんのり頬が赤くなる。

「エマってば本当に器用だよね。何でもできる」

「必要だから工夫しているだけです。レティシア様が寒い思いをしないために」

「……そういうところ、好き」

「はい?」

「なんでもない!」

―――今好きって言った?好きって言われたよね?

録音できたら…録音できたら家宝にするのに…!!


二人で紅茶を入れてリビングに移る。

暖炉の前はまだ冷えているが、温かい湯気のおかげでわずかに空気が和らいだ。

レティシアは椅子に座るやいなや、カップを両手で包んでほっと息をつく。

「今日アリーゼに会えてよかったなぁ。あの子、相変わらず可愛いし」

「本当に仲がよろしいのですね」

「うん!アリーゼとは小さい頃から一緒に遊んでたんだよ。すぐ泣くし、すぐ笑うし、わりとすぐ転ぶし!」

「……今のレティシア様も似たようなものでは?」

「似てない!」

ムッとした顔がまた子どもっぽくて、エマは思わず笑ってしまう。


「でもさぁ、エマ」

カップを置いたレティシアの声が少しだけ落ち着いた。

「アリーゼって、すごく頑張ってるよね。家のこととか、いろんなこと」

「……はい。子爵家の跡継ぎですから」

「むぅ〜…私も頑張らなきゃ」

「もっと頑張ってください」

「そこは励ましてよぉ」

珍しく真面目な顔のまま、膝に手を置いて宣言するレティシア。

その横顔を見て、エマは静かに紅茶を口に運んだ。


しばらくしてレティシアは小さく伸びをする。

「うぅん……あ、あったかいと眠くなる…」

「まだ夕方ですよ?」

「知ってるけど!」

「まずは暖炉に火をいれましょう。部屋全体を温めないと」

「え、エマがやるの?」

「もちろんです。レティシア様に薪を運ばせるわけにいきません」

「じゃあ!私が見てる!」

「……それは単に怠慢なのでは?」

「バレた?」


二人は笑いながら暖炉へ移動した。

エマが火を起こしはじめると、レティシアは真横でちょこんと座り込み、薪が燃える様子をぼんやり眺めている。

やがて火が安定し、部屋に柔らかな暖かさが広がる。


「ねぇエマ」

「なんでしょう」

「今日もありがと」

「当たり前のことをしただけです」

「でもね、エマがいると安心するんだ」

「……それは光栄です」


炎がぱちぱちと音を立てる。

外の風はまだ冷たいが、二人の時間はぬくもりで満たされていた。

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