まだ外に行かれるのですか…?
朝、吐く息が白い。
窓の外の木々は少しずつ色づきはじめ、夏の面影を残した青が、今は紅と黄金に染まりつつあった。エマは暖炉の火を見つめながら、ふと呟く。
「……もう、四ヶ月か」
この世界に転生してから。王城での騒動や舞踏園、皇子との勉強会。思えば濃すぎる時間を走り抜けてきた。そして気づけば季節は秋。朝晩の空気は刺すように冷たく、窓をくぐり抜け、肌を撫でる風にエマは自然と肩をすくめた。
「寒くなってきたな……」
思わず日本の冬を思い出す。前世ではホットミルクにブランケット、こたつ、マフラー。暖かいものを思い浮かべるだけで、少し心がやわらぐ。
「……この世界にも電気毛布とかあったらなぁ」
そんなことを考えながら、部屋を後にしようとすると―――
「エマー!いい天気よ、外行こ!」
「……レティシア様、寒いですけど?」
「平気平気!風が気持ちいいの!」
レティシアは頬を赤らめ、楽しげに外を指さした。見れば確かに空は高く澄み切っている。
けれど風は強く、頬に当たるたび冬の気配を含んだ冷たさが刺さる。
「……わたし、寒いの苦手なんですけど」
「大丈夫!!動けば暖かくなるから!」
「理屈はわかりますが……」
そう言いつつ、結局エマはレティシアの勢いに負け、仕方なく外に出る準備をする。
ロングコートを羽織り、マフラーを首に巻く。耳当ても忘れずに。
風が吹いた瞬間、二人の髪がふわりと舞う。
レティシアの髪は光を反射し、エマの淡い色の髪は後ろへと流れた。
「ほら見て、街の方まで見える!」
「ほんとだ……空気が澄んでるからですね」
丘を下りながら、二人は並んで歩く。エマはマフラーを押さえ、レティシアは頬を紅潮させて風を受け止めている。本当にこの子は寒さを感じないのだろうか、とエマは思わず苦笑した。
そんなとき、前方から人の声がした。
見ると、一人の少女が歩いてくる。金髪を結い上げた優雅な立ち姿。
その隣には侍女らしき人物が一人。身なりも雰囲気も、どこかただ者ではない。
あれ…って…もしかして……聖女……?
舞踏会でも何かと付き纏ってきた今作の黒幕的存在の聖女―――
そう思った瞬間、隣のレティシアが大声を上げた。
「アリーゼ〜!!」
「レティシア!?」
金髪の少女――アリーゼと呼ばれた彼女が目を丸くした次の瞬間、レティシアは勢いよく駆け寄って抱きついた。
「わぁっ、ちょ、レティシア、苦しい……!」
「だって久しぶりなんだもん!」
再会を喜ぶように笑い合う二人。エマは立ち尽くしたまま、ぽかんと二人を見ていた。
……誰……?
風が再び吹き抜け、落ち葉を巻き上げた。
秋の空の下、エマはひとり、状況を理解できずに立ち尽くすのだった。




