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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
32/66

エマ!!久しぶりの休日だよ!!

舞踏会から二日が経った。

あの夜の喧騒が嘘のように、屋敷の中は穏やかだった。

窓から差し込む朝の光が白いカーテンを透かして、柔らかい影を作る。


「エマ!!おはよう!!」


勢いよく扉を開けて入ってきたのは、もちろんレティシアだった。

朝からそのテンションである。


「おはようございます、レティシア様。そんなに元気だと床が抜けますよ。しかし、レティシア様早起きまでしてどこにおられたのですか?」

「だって今日は休日だよ!?エマを起こしに行ったの!!まぁ…エマとっくに起きて居なかったけどさ…」

「私を起こしにですか…」


「そう!!一緒にお出かけしたいからさ」

「お出かけ、ですか?」

「そう!! ねぇ、王都に美味しいパン屋さんがあるんだって!! すっごく評判なの!!」


レティシアの目がきらきら輝いていた。

二日前、あれだけの舞踏会と襲撃…ということにしておこう。襲撃を乗り切ったというのに、この切り替えの早さは尊敬に値する。


「パン、ですか……まぁ、悪くはないですね」

「やった!! 決まり!!」


レティシアはあっという間に外出用のドレスに着替え始める。

エマは苦笑しながらも支度を整え、屋敷を出る準備をした。


―――王都は今日も賑やかだった。

市場では果物を売る声が響き、道を歩けば子供たちの笑い声が聞こえる。

あの夜の騒ぎなんて、まるで遠い昔のことのようだった。


パン屋に着くと、店の前にはすでに人の列。

焼きたてのバターと小麦の香りが風に乗って漂ってくる。


「ん〜!! いい匂い〜!!」

「レティシア様、列に並びましょう。貴族だからといって順番を飛ばすわけにはいきません」

「分かってるよ〜でもお腹すいたぁ〜」

「少し我慢です」

ようやく順番が来ると、店主らしき恰幅の良い女性が笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ〜!お嬢さんたち、どれにする?」


「これと、この丸いのと、このチョコのと…あ、それも!!」

「……それ全部ですか?」

「うん!! ね、エマも食べるでしょ?」

「まぁ、少しだけなら」


買いすぎだとは思いつつも、こうして笑顔で食べ物を選ぶレティシアを見ていると

何だかそれも悪くない気がした。


店の前のベンチに腰をかけて、二人で袋を開ける。

焼きたてのパンはまだほんのり温かくて、香ばしい匂いが漂った。


「ねぇ、エマ。こういう時間っていいよね」

「……えぇ。平和というのは、案外こういう瞬間のことを言うのかもしれません」

「そうそう!! ね、また一緒に来ようね」

「はい。……次はもう少し控えめな量でお願いします。太りますよ」

「えぇ〜〜!?」


エマは思わず笑ってしまう。

本当に、こうして笑うのは久しぶりだった。


パンを食べ終わった後、二人は市場を少し散歩してから屋敷に戻った。

途中、露店で小さな花飾りを見つけて、レティシアが一つ買ってくれた。


「ほら、エマの髪に似合いそうだったから」

「貰っても良いのでしょうか……いえ、ありがとうございます」

「うん!! これで今日も完璧だね!!」


その笑顔が、朝日よりもずっとまぶしかった。

舞踏会の夜も、戦いも、今だけは遠い夢のように霞んでいく。


―――穏やかな午後の風が、二人の間をやさしく撫でていった。

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