エマ!!久しぶりの休日だよ!!
舞踏会から二日が経った。
あの夜の喧騒が嘘のように、屋敷の中は穏やかだった。
窓から差し込む朝の光が白いカーテンを透かして、柔らかい影を作る。
「エマ!!おはよう!!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、もちろんレティシアだった。
朝からそのテンションである。
「おはようございます、レティシア様。そんなに元気だと床が抜けますよ。しかし、レティシア様早起きまでしてどこにおられたのですか?」
「だって今日は休日だよ!?エマを起こしに行ったの!!まぁ…エマとっくに起きて居なかったけどさ…」
「私を起こしにですか…」
「そう!!一緒にお出かけしたいからさ」
「お出かけ、ですか?」
「そう!! ねぇ、王都に美味しいパン屋さんがあるんだって!! すっごく評判なの!!」
レティシアの目がきらきら輝いていた。
二日前、あれだけの舞踏会と襲撃…ということにしておこう。襲撃を乗り切ったというのに、この切り替えの早さは尊敬に値する。
「パン、ですか……まぁ、悪くはないですね」
「やった!! 決まり!!」
レティシアはあっという間に外出用のドレスに着替え始める。
エマは苦笑しながらも支度を整え、屋敷を出る準備をした。
―――王都は今日も賑やかだった。
市場では果物を売る声が響き、道を歩けば子供たちの笑い声が聞こえる。
あの夜の騒ぎなんて、まるで遠い昔のことのようだった。
パン屋に着くと、店の前にはすでに人の列。
焼きたてのバターと小麦の香りが風に乗って漂ってくる。
「ん〜!! いい匂い〜!!」
「レティシア様、列に並びましょう。貴族だからといって順番を飛ばすわけにはいきません」
「分かってるよ〜でもお腹すいたぁ〜」
「少し我慢です」
ようやく順番が来ると、店主らしき恰幅の良い女性が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜!お嬢さんたち、どれにする?」
「これと、この丸いのと、このチョコのと…あ、それも!!」
「……それ全部ですか?」
「うん!! ね、エマも食べるでしょ?」
「まぁ、少しだけなら」
買いすぎだとは思いつつも、こうして笑顔で食べ物を選ぶレティシアを見ていると
何だかそれも悪くない気がした。
店の前のベンチに腰をかけて、二人で袋を開ける。
焼きたてのパンはまだほんのり温かくて、香ばしい匂いが漂った。
「ねぇ、エマ。こういう時間っていいよね」
「……えぇ。平和というのは、案外こういう瞬間のことを言うのかもしれません」
「そうそう!! ね、また一緒に来ようね」
「はい。……次はもう少し控えめな量でお願いします。太りますよ」
「えぇ〜〜!?」
エマは思わず笑ってしまう。
本当に、こうして笑うのは久しぶりだった。
パンを食べ終わった後、二人は市場を少し散歩してから屋敷に戻った。
途中、露店で小さな花飾りを見つけて、レティシアが一つ買ってくれた。
「ほら、エマの髪に似合いそうだったから」
「貰っても良いのでしょうか……いえ、ありがとうございます」
「うん!! これで今日も完璧だね!!」
その笑顔が、朝日よりもずっとまぶしかった。
舞踏会の夜も、戦いも、今だけは遠い夢のように霞んでいく。
―――穏やかな午後の風が、二人の間をやさしく撫でていった。




