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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
24/54

行って見返してやりましょう

六日目。

朝の陽射しが差し込む練習場で、レティシアは静かに立っていた。

以前のような怠さはもうない。背筋は凛と伸び、所作には自然な美しさが宿っている。

「……綺麗です、レティシア様。」

エマが微笑むと、レティシアは少し照れながらも顔を上げた。

「まだ完璧じゃないけど、頑張ってるから。」

「その言葉こそが、最も美しいものです。」


午前は発声と挨拶の練習。午後はドレスでの立ち振る舞い。

扇子を広げる角度、笑う時のタイミング、視線の配り方――

細部まで徹底して磨かれたその姿は、もはや“悪役令嬢”ではなく、“社交界の華”。


七日目。

エマは鏡の前に立つレティシアの髪を梳きながら、そっと言った。

「舞踏会は、見せる場です。心の強さも、優しさも、すべて“見せる”ことが大切。」

「……うん。もう逃げない。逃げたら、また前みたいに泣いちゃうもん。」

「ええ。もうあんな涙は似合いません。」


その夜、レティシアは一人で鏡を見つめた。

顔立ちは同じはずなのに、表情が違う。

芯のある眼差し。

“このままで終わらない”という意志が、彼女の中に確かに息づいていた。


八日目――舞踏会当日。


朝から屋敷は静かにざわめいていた。

侍女たちは忙しなく行き来し、香水の匂いが廊下に満ちる。

レティシアはいつも通り軽い体操をし、発声練習をし、読み書きの復習まで終えていた。

「本当に今日が本番なのですね……」

「ええ。ですが焦らなくて大丈夫です。努力は裏切りませんから。」


午後。

体を清めるために浴室に入り、湯に浸かる。

「……緊張してきたかも。」

「緊張は悪いものではありませんよ。大切なのは、“それを美しさに変えること”です。」

エマがタオルを差し出すと、レティシアは頷き、湯から上がった。

髪をほぐし、香油を少しだけつけて艶を出す。

白く繊細な肌に、深紅のドレスが映えた。

背中から腰にかけて流れる布地が光を受けて揺れ、まるで一輪の薔薇のようだった。


「……どう?」

「完璧です。まさに“復讐の薔薇”ですね。」

「ふ、復讐って……!」

エマは小さく笑いながら、自身の黒い舞踏会ドレスの裾を整えた。


その瞬間、レティシアは思わず息を飲んだ。

黒いドレスに包まれたエマは、まるで夜そのものを纏っているようだった。

光沢を帯びた漆黒が肌の白さを際立たせ、瞳の金が宝石のように輝いている。

「な、なんで……主人公より綺麗なの!?」

「さぁ、レティシア様のほうが綺麗な気もしますが」

軽やかに笑うその姿に、レティシアはもう一度、自分の髪を整え直した。


「……それでは行きましょうか、レティシア様。」

「え、えぇ……!!」

「ここで、一矢報いてやりましょう。」

その言葉に、レティシアは強く頷いた。


夜風を切りながら、二人は屋敷を出る。

馬車の車輪が石畳を叩く。

窓の外に見える王都の明かりが、少しずつ近づいていく。

「順調に行けば、日が降りる頃には着くはずです。」

エマが穏やかに言う。

「うん。今度こそ……絶対に負けない。」


その時だった。


ゴトン――


馬車が大きく傾き、レティシアが思わずエマの腕にしがみつく。

「きゃっ!?」

「レティシア様、大丈夫ですか!?」

御者の声が外から響いた。

「お、お嬢様方!前方に……っ!」


エマがカーテンを開く。

王都へ続く街道の真ん中に、数台の荷馬車が横倒しになっていた。

その影の向こうで、黒いローブの影がゆっくりと立ち上がる。


――夜風が、急に冷たくなった。

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