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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
18/54

止めなくちゃ。

石畳の街“トレント”は、昼の光で眩しく輝いていた。

露店には色鮮やかな布、果実、香料。行き交う人々の声が響き、馬車の車輪が乾いた音を立てる。

そんな中――エマの視線が、ふと人混みの中の二つの影を捉えた。


金色の髪を風になびかせる青年。

その隣には、白衣をまとった少女。

二人は笑いながら、市場をゆっくりと歩いていた。

――皇子と、聖女。


(……嘘、どうしてここに……!?)


エマの心臓が跳ねた。

まさか、もう出会ってしまうなんて――ゲームの“あのイベント”そのものだ。

この瞬間から、すべてが変わってしまう。


「……あら、何かあったの?」


レティシアの穏やかな声。

エマは反射的に身を乗り出して、窓の外を手で遮った。

「いえ!…あの、少々風が強くて、砂が入るかと」

「そう?」

レティシアは少し首を傾げる。

だが外から聞こえるざわめきが、彼女の好奇心を抑えきれなくしていた。

人々の歓声。拍手。

「殿下だ!」という声。


駄目、見ちゃ……!


「……ねぇ、エマ。今の声……」

レティシアは窓のカーテンをそっと押しのけた。

その瞬間、視界が開ける。

陽の光の中で、微笑む皇子と聖女。

寄り添い、幸せそうに笑っていた。


――時間が止まった。


レティシアの口元から、音が消えた。

いつも柔らかく弧を描いていた笑顔が、ゆっくりと解け落ちていく。

視線の奥にあった光が、薄れていく。

そして、ただ静かに呟いた。


「……そっか」


エマは息を呑んだ。

駄目だ、ここで心を折らせちゃ……!


馬車は領主の館の前で止まる。

石造りの荘厳な門。豪奢な紋章。

カレンが先に降りて、領主のもとへと向かう。

扉が閉まり、馬車の中には、エマとレティシアだけが残された。


沈黙。

風の音だけが、外の世界と繋がっている。


「……レティシア様、ご降車を。」


エマが優しく促す。

しかし、レティシアは動かない。

俯いたまま、膝の上の指をぎゅっと握りしめた。

そして、小さく笑った。


「……私って、そんなに……“代わりになれない人”なのかな。」


震えた声が、心に刺さる。

涙を隠すように、笑みを作る彼女の頬が揺れた。

エマは何も言えず、ただその横顔を見つめるしかなかった。


――駄目だ。このままじゃ、ゲームの通りになる。いや、ゲーム以上の…


エマの頭の中に、あのイベントシーンが蘇る。

この後、皇子と聖女が領主館を訪れ、偶然―――三人が出会う。

その瞬間、レティシアの運命は決定する。

"悪役令嬢"としての道を歩み始める。

ただ、あの二人を一度見ている。ただでさえ心が折れてるのに…このまま来てしまえば追い打ちをかけることになってしまう。


ど、どうすればいいの!?どうやって止めれば…!!


窓の外には、すでに皇子と聖女の二人が乗った馬車が見えていた。

近づいてくる馬車の音。

エマは立ち上がる。

息を整え、扉のノブに手をかけた。


―――変えなくちゃ。この不条理を

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