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剣がしたいのですか?お嬢様

昼の暖かい光が差し込む庭。

今朝の炎と雷の跡がまだうっすらと残っていた。


「えーっと……こ、こう、かな?」

レティシアが両手で剣を握り、構える。

どこかぎこちない。

教えられる立場ではないのは分かっているが…

素人目線で見ても足幅も、姿勢も、重心も――全部めちゃくちゃだ。


「お嬢様、重心が後ろに行きすぎています」

「うぅ〜、重心とか分かんない!」

「では、まずは素振りから」

「そぶりってなに!?」


言いながら、レティシアはえいやっと剣を振り上げ――



「――え?」

「…………」

剣がきれいな放物線を描いて、芝生の上に突き刺さった。


「……あ、あはは。え、今のはその、風のせい?」

「無風です」

「そ、そうよねぇ〜……」


肩を落とすレティシア。

その様子に、私は静かに言った。


「お嬢様。剣は一朝一夕に身につくものではありません。今日はここまでにしましょう」

「そ、そうね……私には、火と雷があるもん……!」


胸を張るレティシア。だが次の私の一言で、彼女の顔が凍りついた。


「では、屋敷に戻って――本日の訓練を始めましょう」

「……ま、まさか……」

「数学です」

「ま、待って、昨日もやったじゃない!?」

「今日は“極限”を行います」

「きょ、極限!? 何それ怖い!!」

「取り敢えず、難しいものです」

「う、うぅ……聞くだけで頭が痛いわ……」



レティシアの机には、白い紙とペン。

私は黒板代わりのボードを前に立つ。


「では、お嬢様。“xが0に近づくとき”という表現を」

「……ち、近づかなくていいじゃないのよぉ……!」

「そういう問題ではありません。では、こちらを」

「ちょっと待って!? 数字が分数になってる!!」

「それが“極限”です」

「ぅぅぅ……!」


数時間後――


「……エマ……頭から煙が出てる気がするんだけど」

「気のせいです。……では、少し休憩いたしましょうか」


私は立ち上がり、キッチンへと向かう。

少しだけ甘い香りが漂い始めた。



「お待たせしました。こちら、本日のティータイム用お菓子です」


テーブルに並べたのは、ふわふわのカスタードタルト。

焼き色のついた生地の上で、金色のクリームがとけていた。


「わぁ……! このお菓子、美味しい!!」

「僭越ながら、私が作らせていただきました。そう言っていただけると幸いです」

「エマが!?えっ、なにこれ……パティシエ!?」

「いえ、侍女です」



レティシアは感動したように頬を押さえた。

「……ねぇ、エマって何でもできちゃうのね……」

「努力の結果です」

「……ずるい」

「お嬢様も努力なさっております」

「うぅ……でも、極限は無理……」


「では"微積"でもされますか?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


廊下に響く悲鳴。

その声を聞きながら、私は静かに紅茶を口にした。

――こうして今日も、レティシア家は平和だった。

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