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特訓しましすよレティシア様

朝の庭は、まだ露が光っていた。鳥の囀りを背景に、レティシアがゆっくりと手をかざす。

その掌から、ふっと火が生まれた。

「ふぁいあ……ばれっと、っと」

詠唱というより、呟きに近い。

次の瞬間、弾丸ような炎が弾け、木の的に命中した。

ぱしゅん、と乾いた音。煙がのぼる。


「……やっぱり、朝は火よね!」

「私に当てないでくださいね」

「体が温まるからいいじゃない」

「人体ごと燃やして殺すおつもりですか」


呆れながらも、私は彼女の魔法に見入っていた。

――炎を自在に操る姿は、優雅で、凛として、美しい。

けれど、その炎がほんの少し揺れるたびに、自分の胸もざわめく。


「エマもやってみたら?」

「え?」

「魔法。あなたも使えるんでしょう?」


ま、待って!?転生してきたわけだから魔法なんて…

それどころか数年前にやってたゲームだから…どんな魔法があったかとか覚えてないし…


「そ、その……僭越ながら、使い方を忘れてしまいまして」

「えぇ!? 忘れるものなの!?」

「申し訳ありません。その…よろしければ、教えていただけないでしょうか」

「もちろんよ! 任せて!」


―――この時の私、気づくべきだった。

『任せて』=地獄の入り口であると。


「まずね、こう、手をこうして、えいってすると、ぼん!って出るの!」

「……えい、ぼん」

「そう!あ、でもね、魔力をぎゅってして、ぽんってして、どーんって!」

「なるほど、語彙力が崩壊していますね」

「うるさい!」


見様見真似で手をかざす。

何かが、掌の奥でうごめいた。

――ぽ、と小さな光。

空気が震え、炎が花のように咲いた。

「……出た」

「えっ、えぇ!? 私ですら何言ってるかわからない説明でなんで出来るようになるの!?」

「感覚で掴めばどうにかなるものですね」

「な、なんなのよあなたっ」


私はもう一度、空を見上げて手を伸ばす。

――炎が、風に揺れた。

風。そうだ、風を混ぜれば――。

胸の奥で何かがぱちんと弾ける。

次の瞬間、炎が青く光を放った。


「えっ、ちょ、なにそれ!? 青い!?」

「酸素を送りました」

「さんそ!?なにそれ!!理屈が分かんないけど、すごい!」

青炎は鋭く、まっすぐに飛び、的の中心を貫いた。

焦げた木の香りと共に、静寂。


「……す、すごいじゃない……私より歳上なだけあるわね!!」

「恐縮です」


レティシアは頬をふくらませながら、それでも目を輝かせていた。

「……なんか悔しいっ!」

「ならば、お嬢様ももう一度」

「見てなさいっ!」


次の瞬間、雷鳴が走る。

バチン、と空気が裂け、白い閃光が木を焦がした。

「……危ないです」

「ちゃんとコントロールしてるもん!」

コントロール…コントロールかぁ…なんだろうなぁコントロールって。

なんで的を狙ったはずの稲妻が私に向かって走ってくるんだ。


それでも、火花の残る空を見上げる彼女の横顔は、美しかった。

悪役令嬢、そのような物を一切感じさせない。

そういえば、悪役令嬢だった。忘れてた。てっきりただの美少女かと。



「……ねぇ、エマ」

「はい」

「あなた、魔法だけじゃなくて、剣も出来るでしょ」

「け、剣ですか……?」

「前、出来るって聞いたわよ!!」

「そんなこと言った覚えはありません」

「見せてくれないの?」

「……後悔しないのであれば」


剣か…前世ですら剣道すらしたことないから剣を握ったこともない。

料理はできるけど、別包丁を振り回したりすることはない。

しかし…レティシアが目を輝かせてる。

ちょ…その期待の眼差しやめてください。

キラキラが飛んできてます。


全く…期待を裏切るようなことは出来ないか…


私は庭の片隅に立てかけてあった訓練用の剣を手に取った。

ずしりと重い。

けれど――手に馴染む。


なんでだ、剣なんて握ったこと一度もないのに。

もしや…エマの体が覚えて―――?

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