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09.新たな愛の始まり、薔薇園での誓い


 王太子デイヴィット殿下の婚約者になることを承諾してから数日後。カテリーナは、王宮内の薔薇園で、殿下との非公式な顔合わせに臨んでいた。


 父ランドロフ公爵は「王族の親族となるのだから」と、これまで以上に贅を尽くしたドレスと宝石を用意した。カテリーナは、眩しいほどの装いを身に纏い、国王陛下と王妃殿下、そしてデイヴィット殿下の待つ薔薇園へと向かった。


 薔薇園の美しいアーチをくぐると、デイヴィットは待っていたかのようにカテリーナに歩み寄り、恭しく手を差し伸べた。


「カテリーナ嬢。ようこそ、薔薇園へ。貴女の到着を心待ちにしておりました」

「デイヴィット殿下。この上ない光栄でございます」


 デイヴィットは、カテリーナをエスコートし、国王夫妻の元へ向かう。国王夫妻は、カテリーナを見て穏やかに微笑んだ。


「カテリーナ嬢。改めて、デイヴィットの婚約者として迎え入れる。先日の貴女の振る舞いは、一国の未来の王妃として、誠に立派であった」

「陛下。恐縮でございます」


 一通りの儀礼的な会話が終わると、王妃殿下が優しく提案した。


「デイヴィット、カテリーナ嬢と二人で、この薔薇園をゆっくりと巡ってきなさい。二人の将来について、語り合う時間が必要でしょう?」


 デイヴィットは王妃に感謝の意を伝え、再びカテリーナの手を取った。


「では、カテリーナ嬢。少々、私と二人だけの時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「喜んで、殿下」




 二人は、薔薇の香りが立ち込める小道を、ゆっくりと歩き始めた。静寂に包まれた小道で、デイヴィットが口を開いた。


「婚約を受けていただき、感謝する。貴女の父上から、貴女が一度は辞退されるかもしれないと聞かされていた。心から安堵している」

「恐れ入ります。ですが、一度婚約を破棄された私です。殿下の立場を危うくすることはないかと……」


 カテリーナは、『瑕物令嬢(きずものれいじょう)』のレッテルを恐れるカテリーナの意識を代弁した。デイヴィットは歩みを止め、カテリーナと向き合った。そして、穏やかな、しかし強い眼差しで彼女を見つめた。


「カテリーナ。貴女は、瑕物などでは断じてない。貴女の婚約は、貴族社会の不純物を排除するための、神聖な儀式だったと、私は思っている」


 カテリーナは、その言葉に思わず息を呑んだ。


「貴族は感情ではなく、責任とロジックで国を治める。あの式典で、貴女はシルヴァンとレインの幼稚な『愛』を、マナーと証拠という『貴族の鉄則』で打ち砕いた。あの場で、貴女ほど王妃の器に相応しい女性はいなかった」

「殿下……」


 デイヴィットは、カテリーナの手を優しく握り締めた。


「貴女は、周囲の雑音を気にしているようだが、気にする必要はない。貴女の聡明さ、そして逆境に立ち向かう強かさは、この国を支える国母にこそ必要な資質だ」


 そして、少しいたずらっぽく、微笑んだ。


「それに……あの時、貴女が『可愛げのない女』と罵られた時、私は心の中で『なんとも美しい強さだ』と、深く魅了されていた。私にとって、貴女は最高の女性だ」


 ストレートな愛の告白に、カテリーナの頬が熱くなる。


「殿下は……あの時、すべてを見抜いていらっしゃったのですね」

「ああ。特に、貴女がレイン嬢に言い放った『恥を知りなさい』という叱責。あの王宮の場で、貴族の倫理を忘れなかった貴女の誇りに、私は深く感動した」


 デイヴィットはそう言って、優しくカテリーナの頬を包み、視線を彼女の髪に落とした。


「貴女のこの美しい黒髪は、私の母方の故郷に咲く夜桜のようだと、私は幼い頃から思っていた」


 そう呟くと、デイヴィットは優雅に跪き、カテリーナの艶やかな髪に、静かに口付けた。その行為は、深い尊敬と、愛情を示す、王族の愛の誓いだった。カテリーナは、幸福感に包まれながら、この新しい運命の糸を、しっかりと握り締めるのだった。

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