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05.断罪~前編~


「おや、遂に私の出番かな?」


 国王陛下や来賓たちの前で、婚約者と妾が繰り広げる茶番の最中。この国の王太子デイヴィット・ラル・フローレン殿下が、優雅な足取りで壇上へ近づいてきた。シルヴァンは慌てて恭しく頭を下げる。レインは瞳を輝かせ、デイヴィットに見惚れている様子だ。


「デイヴィット殿下。わたくし、レイン・トラバルトと申します。シルヴァンとは、互いに惹かれ合う『運命の(つがい)』なのです!」


 レインは、自らデイヴィットに名乗り出て、まるで自分が悲劇のヒロインだとでも言いたげに、濡れた瞳で訴えかけた。デイヴィットはレインを一瞥し、すぐにカテリーナへと視線を戻す。


「シルクレイド嬢。先程、シルヴァンが『王太子と親密な関係』だと貴女を非難したようだが、事実かね?」


 カテリーナは涼やかに笑みを返す。


「まさか。殿下とはこの卒業式典までの間に、たった一度、舞踏会でダンスをご一緒させていただいただけですわ。その際、殿下から私へそして私から殿下へ、公爵家令嬢と王族として不敬のない、至極真っ当な外交的な挨拶を交わしましたわ」


 カテリーナは、公爵令嬢として完璧な受け答えをしてみせる。すると、シルヴァンがカテリーナを指さし、声を荒げた。


「嘘だ! レインは、お前が裏で殿下を誘惑していたと!」

「待て、シルヴァン!」


 アッシュレイ公爵が、席から半身を乗り出して慌ててシルヴァンを制止しようとしたが、既に遅い。


「殿下は、カテリーナの可愛げのない性格をご存知ないから騙されているのです! レインは、その可愛げのない女のせいで、お茶会にも行けず、ドレスもダメにされたのですよ! なのにカテリーナは、高位貴族の特権を傘に着て、レインを虐めていた! 許せません!」


 怒りに任せて口走られた、『高位貴族の特権』という言葉。その場に居合わせた全ての貴族たちが息を飲んだ。彼らが最も重んじる貴族社会の秩序、その根幹を揺るがす発言だったからだ。


「ほう……高位貴族の特権、か」


 デイヴィットの声が、静まり返った会場に響き渡る。その声は、どこまでも穏やかだが、酷く冷たい。デイヴィットは、カテリーナとシルヴァンたちの間に立ちはだかり、シルヴァンを見据えた。


「公の場で、婚約者でもない令嬢と終始踊り、カテリーナ嬢を一人にした。これはマナー違反。貴族の恥。カテリーナ嬢の父君である公爵閣下へ、面子を潰したことに謝罪がない。これは重大な不敬。そして今、国王陛下の御前で、根拠なき主張と私的な感情論により、婚約者を公然と罵り、非難した。これは、王族への不当な告発、そして国王への不敬罪だ」


 デイヴィットは、傍に控える近衛兵に目配せする。兵士は即座に一つの封筒をデイヴィットに渡した。


「レイン嬢の訴えの三つ目である、『王太子殿下と親密な関係』について。カテリーナ嬢が私を誘惑したという事実はない。だがレイン嬢は、私とシルヴァンがテラスで交わした会話を盗み聞きし、その内容を歪曲してシルヴァンに告げ口したという報告書は、ここにある」


 デイヴィットは封筒から書類を取り出すと、パラパラとホール中央の床に撒き散らした。その書類の束は、情報屋が用意した、シルヴァンとレインの愚行を克明に記した報告書、そしてレインの私的な行動記録だった。


「この卒業式典は、貴族社会を担う次世代の門出を祝う場である。それを私的な痴情のもつれで汚す行為は、貴族の常識に照らして許されることではない」


 デイヴィットは、冷え切った視線をシルヴァンとレインに向けた。


「貴族は、マナーとロジックで語らねばならない。カテリーナ嬢は、レイン嬢の主張した三つの項目全てについて、『貴族の鉄則』を根拠に、マナー違反と常識の欠如を指摘した。しかし、貴方達二人はどうだ? 嫉妬、逆恨み、そして『可愛げのない女』という、貴族社会で最も忌むべき感情論だけで反論した」

「そ、そんな!」


 シルヴァンは顔面を蒼白にさせ、膝から崩れ落ちそうになる。レインは事態を理解できず、呆然としている。来賓席からアッシュレイ公爵は力なく目を閉じ、トラバルト子爵は椅子から転げ落ちていた。そして、国王陛下が静かに立ち上がった。


「これにて、茶番は終了だ」


 国王の重々しい声が響き渡る。その言葉は、シルヴァンとレインに対する死刑宣告にも等しい響きを持っていた。

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