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03.ダンスと警告


 舞踏会の会場に着くと、早着替えを済ませたレインは既にシルヴァンにべったりと寄り添っていた。早着替えマジックですわね、とカテリーナは呆れ一人で入場する。


 通常、舞踏会は婚約者を連れ立って入場するのが習わしだ。万が一婚約者がいない者は、婚約者がいない相手を誘い参加する。一人で入場したカテリーナに、場内は騒然となった。


 会場にいる生徒たちは、シルヴァンとレインが終始二人きりで踊り続けているのを見て眉を顰めていた。しかし、二人は気にしないのか、ずっとダンスを踊っている。


「カテリーナ様、よろしいのですか?」


 リリアナが心配そうに声をかけてきた。


「あら、リリアナ様。ごきげんよう。良いのです、恥の上塗りをしている婚約者とその妾はこの異常事態がわからないのですから、放っておきましょう」


 口許を扇子で隠し毒づくカテリーナ。リリアナもカテリーナが良しとするなら、と放っておくことにした。


 奇異の目で見られているのに気づかないのか、それすら彼らの恋路のスパイスなのか……カテリーナには推し量れないが、好きにすれば良いと思っている。それに、証拠はいくらあっても良いのだから。カテリーナはほくそ笑む。


「リリアナ様、婚約者(パートナー)がお見えですわ。私は大丈夫ですから」


 リリアナはパートナーと共にダンスホールに降りていった。カテリーナはその姿を微笑ましく見ている。


「シルクレイド嬢、私と踊っていただけないだろうか?」


 背後から声が掛かり、カテリーナは振り返る。恭しく手を差しのべる王太子デイヴィット・ラル・フローレン殿下の姿がそこにあった。


「皇太子殿下、お誘いありがとうございます」


 デイヴィットの手を取り、カテリーナはダンスホールへと降りていく。デイヴィットとカテリーナのために中央を空ける面々。二人はお礼を伝え、空いた中央でホールドして曲を待つ。


 音楽が流れホールに集まったカップルが踊り始める。中央にはカテリーナとデイヴィット、そしてリリアナとその婚約者。そしてシルヴァンとレインもいる。


「おやおや……まだ踊るのかな、あの二人は。恋は人を狂わすと言うが……あぁはなりたくないものだ」

「本当にそうですわ」

「シルクレイド嬢は何もしないのかな?」

「お戯れを。仮に私が何か言っても、恋を焦がす燃料になるだけですわ」


 カテリーナは諦めたような呆れたような表情で答えた。


「ふむ、そういうものか……」


 デイヴィットは視線を少しだけシルヴァンとレインに向け、カテリーナに視線を戻す。カテリーナは微笑んだ。


「そういうものらしいですわ」


 その後は特に会話をせず優雅に踊りきった二人。デイヴィットはカテリーナをエスコートしたままホールを離れ、給仕が運ぶ飲料を取り喉を潤わせた。少し談笑していると不意に鋭い視線を感じ、カテリーナはその視線の主に視線を向ける。シルヴァンとレインだ。


「私達の仲を疑っているのかな?」

「まさか! ………自分達は棚に上げてですか?」


 デイヴィットの言葉にカテリーナは驚く。肩を竦めてデイヴィットは「人とは都合の悪いことには目を向けないからね」と囁いた。


「肝に銘じておきますわ」


 クスリと笑ったカテリーナは礼をしてデイヴィットから離れた。そして、カテリーナの周りに集まる令嬢達と少し会話をして会場を去っていく。デイヴィットはカテリーナが帰った後に直ぐ様シルヴァンの元へ向かった。


「トラバルト嬢、少々シルヴァンを借りるが良いかな?」


 人当たりのよさそうな笑みを浮かべデイヴィットはレインに問う。顔を真っ赤にしたレインは「はい、どうぞ」と快くシルヴァンを見送る。レインが頬を染めたことが面白くないシルヴァンは、不貞腐れながらデイヴィットの後を追った。




 人が疎らなテラスにデイヴィットとシルヴァンはいた。


「シルヴァン、何故婚約者ではない令嬢と終始共にいるのだ?」


 余計な詮索は不要とばかりに直球で話を切り出す。シルヴァンはデイヴィットにそんなことを言われるとは露程にも気にしていなかったため、不意打ちを食らった気分になっていた。しかし、ここはデイヴィットとの二人の空間だと思い直し、ふっと笑ってみせた。


「カテリーナは口煩くにこりともしない可愛げのない女です」

「トラバルト嬢は違うと?」

「えぇ、共にいると心が安らぐのです」

「では、シルクレイド嬢と婚約解消後に正規の方法で婚約を申し込めば良かろう?」

「まさか! 父上がどうしてもと煩いのですよ。シルクレイド公爵家とのパイプが欲しいそうで。仕方なくカテリーナを本妻として娶り、レインを側妻として娶ろうと思ってます」


 デイヴィットはシルヴァンの回答に、この男を見限る決意をする。歩み寄る努力もせずに側妻を今から囲おうとする性根には嫌悪しか湧かない。デイヴィットはそれを出さないように微笑み理解ある顔をする。


「そういう計画であるなら、もう少し学園内の人目も気にした方が良いと思うが……」

「大丈夫ですよ。我が家はアッシュレイ公爵家なんですから。……………レインを待たせていますので失礼します」


 軽く礼をして離れていくシルヴァンの背中を見ながら、デイヴィットはカテリーナを思い出していた。何かを為そうとしている瞳が垣間見えた気がしているデイヴィット。そして、シルヴァンの返答に更に嫌悪を抱いた。暗に公爵家に逆らう者は持てる力で潰すと明言したのだから。


「あれで次代の公爵とは……世も末だな」


 吐き捨てるようにデイヴィットは独り言を呟いた。

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