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「カイって、実は彼女へのDVがひどくて、前の学校辞めさせられたらしい……」

 友人からのライン通知が画面に浮かんだ瞬間、背筋に凍りつくような寒気が走った。

 慌ててルカに電話しようとスマホを手に取ったその時、逆に電話が鳴った。

 震える声が耳に届く。

『あの……今、綾瀬くんの家にいるんだけど……最初はタイムスリップのこと、ルカも蓮も助ける方法を教えてくれるって言ってたのに、なんか様子がおかしくて……』

 それだけ言うと、電話はぷつりと切れた。

 蓮の心臓は爆発しそうだった。

 足が勝手に動く。脳が焦げ付きそうなほど、全身が警鐘を鳴らしている。

 俺が関わらなければルカは死なない? そんなの、ただの言い訳だ。

 ルカは、あの日からずっと必死に方法を探してくれていた。

 それなのに俺は……クソッ。

 彼女が死ぬ未来があるなら、絶対に、俺がそれを止める。

 ようやく、心の底からそう決意できた。

 ――もう迷わない。

 奴のマンションのドアを、蹴破る勢いで開け放った。

「ルカっ!」

 リビングの奥から、男の怒鳴り声と、なにかが倒れる音が響いた。

「お前さ、俺を拒むってどういうこと? 俺とお前、付き合ってんだろ?」

「ちがっ……あたし、もう帰るって……っ!」

 蓮が飛び込んだとき、そこには血だらけのルカが床に倒れ、髪を引っ張られながら押さえつけられていた。

「やめろッッッ!!」

 瞬間、蓮の体は勝手に動いた。

 カイに殴りかかる。殴って、殴られて、床に倒されて、また起き上がる。

 だがカイは、想像以上に狂っていた。

「なんだよ、お前。ルカにまとわりつくキモ男って、お前か?」

「……お前にだけは言われたくねぇよ」

 次の瞬間、刃物が見えた。

 カイがポケットから、ナイフを取り出していた。

「は? 嘘、まっ……」

 ルカの叫びとともに、蓮の胸に、ナイフが深く突き刺さった。

 ずぶり。

 血があたたかい。いや、もう“熱い”くらいだ。

「あっ……」

 その瞬間、カイは、自分のしたことに気づいたのか、一瞬で青ざめた顔になった。

「……うそ、やば……お、俺、そんなつもりじゃ……」

 うわ言のように繰り返しながら、カイはドアを蹴って逃げていった。

 静寂が戻った部屋で、残されたのは血まみれの二人。

 ルカは、這いつくばって、駆け寄ってきた。

「バカ、なんで来たの……っ! 来なきゃ、刺されなかったのにっ!」

「助けを求めていただろ……それに、来なかったら……お前が、もっと傷ついてた」

 血を吐くようにして、蓮は言う。

「お前が、誰に殺されそうになってても……俺は……助けに行く……」

「やめて、もう喋らないで……っ!」

「最後に、言いたいこと、あるから……」

 彼女の手を、震える手で握る。

「俺が……お前を殺すなんて、するわけないだろ」

「っ……」

「だって、俺は……お前が好きなんだ」

 ルカの目から、涙が一気に溢れ出す。

「うそ、やだ……バカ、もっと早く言ってよ、そういうの……!」

「ごめんな……俺、こういうの、不器用でさ……」

「ちがう……ちがうよ、もっと一緒にいたいよ……!」

 ルカは、蓮の胸に顔を埋めて泣いた。

「もっと優しくしてあげればよかった。もっと、ちゃんと好きって言えばよかった……」

「もう、そんな顔すんなよ……ちゃんと、わかってたから……」

「わかってないよ! 全然足りないよ!」

 涙が頬に落ちたことすら、蓮はもう感じていなかった。

 視界が、ゆっくりと暗くなっていく。

「……次また、生まれ変わったら……」

 ルカが声を震わせて言った。

「絶対、今度こそあなたを……守るから……」

 蓮の手が、ゆっくりと力を失った。

 その瞬間、ルカの視界も真っ白に染まっていく――。

 そして……。

 どこかで、チャイムの音が鳴っていた。

 ――高校の教室。朝のHR直前。

 あれ? どうして、私……?

 記憶の断片が、靄のように脳内に漂っている。

 隣の机には、男子生徒。眠そうな顔の、どこか見覚えのある姿。

 彼はルカに気づいて、ちらりと振り向いた。

「えっと……新しい転校生?」

 懐かしい。けれど、どこか柔らかくなった声だった。

 ルカの瞳には、はっきりと“決意”が宿っている。

 ――今度こそ、彼を殺させない。

 しかし……。

 ……あれ? なんで今、そんなこと思ったんだっけ。

 理由は霞んで、胸の奥がざわつく。

 そして、何かに背中を押されるように、口が勝手に動いた。

「……あの、私、あんたの将来の彼女で……で、あんたに殺されるんだけど?」

 その瞬間、彼の表情がぴしっと凍りつく。

 でも次の瞬間――

「……ちょっと待て。何言ってんだお前」

 その反応が、なぜだか懐かしく、胸の奥に薄く積もっていた切なさを、そっと掬い上げた。

 理由はわからない。ただ、その声に触れた瞬間、遠い記憶の奥で失くしたはずの温もりが微かに疼いた。

 ――まだ、この恋は終わっていない。


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