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「……なにそれ。そっちが言ったんじゃん、“ルカのこと好きになった”って」

「だから言ったろ、勢いで。覚えてないっての」

「ひどっ……! ほんと最悪。そういうとこ、だから未来で私を――」

「やめろ、それ以上言うな」

 机の上の本が震えるほどに、声を張ってしまった。

 ルカが怯えたように目を丸くする。

「……ごめん。あたし、そんなつもりじゃ……」

「いい。もういいよ。俺も、疲れた」

 言ってから後悔した。けど、もう取り返しはつかない。

 死ぬ日まで、もう指折り数えられるほどしか残っていない。それなのに、何も進展はなかった。

 タイムスリップの理論も行き詰まり、殺された理由もわからない。

 わかるのはただ、彼女の未来が“俺によって終わる”という皮肉な事実だけ。

 蓮は立ち上がると、無言で図書室から出て行った。

 ――あの瞬間、何かが確かに変わった。

 翌日、2年C組に新しい転校生がやってきた。

「どうもー、綾瀬カイっていいます。前は都内の私立校にいました。よろしく」

 茶色がかった柔らかい髪に、透き通るような肌、端正な顔立ち。まさに少女漫画に出てくる王子様系男子だ。

「……うわ、イケメンすぎ……」

「まって、あの声……え、歌も上手そうじゃない?」

 教室中がざわつくなか、カイはあっさりと女子の視線を独占した。

 しかも、よりによってルカの隣の席が空いていた。

「あれ、君さ、見かけたことある。ルカちゃんでしょ?」

「え、あ、うん……」

「あー、やっぱり! 前の学校、隣だったもん。懐かしいなぁ」

「……マジか」

 蓮はひとり、教室の隅でため息をついた。

 昼休み、いつもの屋上にもルカは来なかった。

 放課後も、図書室に彼女の姿はない。

 ──ま、いいか。

 蓮はそう思うようにして、スマホを閉じた。

 殺される運命を変えるだの、タイムループだの、どうでもいい。

 だって、ルカの関心はもう、あのイケメン転校生に向いてるんだから。

 俺がいなきゃ、きっと彼女は死なない。

 だったら、離れた方が彼女のためだ。

「……結局、殺すのも救うのも俺じゃないってことか」

 自嘲気味に呟いて、帰り道をひとり歩く。

 背後で聞こえる笑い声。ルカとカイが一緒に歩いてる。

「ルカちゃん、ほんと変わったね。前はもっと地味だったのに」

「は? それ、褒めてる?」

「もちろん。今の方が、ずっと可愛いよ」

 そんな会話が耳に入ってしまうのが、いちばんキツい。

 翌日から、ルカとカイが一緒にいる時間が明らかに増えた。

 授業中も、小さく笑い合い、放課後は毎日一緒に帰っている。

 ルカはもう蓮に目もくれない。話しかけても、そっけないか、笑ってごまかすかのどちらかだ。

「なにそれ……結局、あれも全部嘘だったのかよ」

 好きとか、未来の彼女だとか。

 それらしい理由で近づいて、ちょっと心を開いたふりして、最後はこれか。

 人を好きになるって、どうしてこんなに苦しいんだろう。


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