宇宙世紀群雄伝
承前:星紀前夜 WW3
旧世紀末期。
当時、未だ小国、分裂状態にあった人類勢力は、二つの勢力に糾合され、
遂に、武力衝突の憂き目を見た。
地球規模の統合政府体制樹立を掲げる、北米・欧州聯合に、アジアから唯一加入した日本を中核としたいわゆる先進諸国聯合国家、「地球連合」。
対するは、これを一部の富者の横暴とし、常設国連軍を基幹とした、「反・地球連邦同盟軍」。
こうして戦われた旧世紀最後の世界規模の戦いが、WW3、第三次世界大戦である。
が、
このWW3、戦いの規模は、当時の人類史上最大規模でありながら、実に奇妙な展開を見せることとなる。
陸では、トルコ周辺とロシア・中国の境界。
海ではフィリピン近海と、スエズ周辺で両軍は激突。
したのだが・・・。
地球連邦側の専制攻撃が総てを決めてしまった。
非核型戦術EMP弾頭による、先制、飽和攻撃。
瞬く間に単なるスクラップと化したウェポンキャリアから恐慌状態で転び出る兵員へ更に追い討ちを掛ける、非致死性スタン系神経ガス弾による殲滅戦。
「技術と戦術の差がここまで明白に顕現した戦いは、世にも稀であろう」
と、史書もWW3が人類史に刻んだ衝撃の巨きさに驚きを隠さない。
そして、持てるものは寛容足り得る、この稀有の記憶を。
こうしてWW3は、「史上最も圧倒的な、史上最も効率的な、そして、史上最も寛容な、勝利」。
として、人類の輝ける金字塔となったのである。
しかし一方、
このWW3によるいわば「無血戦争とその勝利」は、
人類に逆の意味での暗い影を落とすこととなる。
それは、「戦争とは悲惨なものとは限らない」
という、極めて危うい楽観論。そして、
「強者は弱者に寛容であるはず」という、
これも危険極まりない予見。
これらが結局、ザイヴ閥の勃興、
そして人工島爆撃という、
史上空前の暴挙を育む悪しき温床となっていくのであるから。
「人生、万事塞翁が馬」は、
人類史でのオールタイム・トゥルーなのである・・・。
「星暦初期の安全保障、その時間軸的考察」より抜粋
0-2
星暦0079年・・・
地球を基準として最外縁に当たる第五群島宙区。
そこを拠点に勃興した、「ザイヴ閥」は周辺宙域を掌握。
「トルーニア公国」を名乗り、地球連合政府に対し、突如宣戦を布告、独立戦争を挑んで来た。
連合政府にとっては、寝耳に水、晴天の霹靂以外の何物でもない、異常事態であった。
そも、宇宙、人工島間の経済は、漸くテイクオフの兆候を示しつつあったが、
それでも未だ、地球の支援なくしては難しい状況にあった。
収奪?、弾圧??、独立???。
はぁ?、はぁ??、はあぁぁ?!?!。
それが、地球連合政府が示した、偽りのない反応であった。
つまり混乱と困惑、錯綜。
確かに、宇宙開発の最外縁である、例えば第5区には、援助の手が廻りきっていない、政府側としての弱みはないではなかった。
が、それはそれ、である。
必要な援助の手は尽くしてあった。
最低限の食料、生活物資を供給する工業施設・・・。
無論、それらを上回る、大規模な物資が、彼らの鼻先を素通りして、
更なる人類のフロンティア、外惑星宙域開発に向け流れていく光景は、
確かに、彼らの神経を逆撫でするものではあったであろう。
が、
豊かな鉱物資源を有する外惑星系、小惑星系に開発の先鞭が付けば、
その恩恵が人類全般に及ぶこと、
そしてなにより、
今度は逆に、最寄の、現在最外縁に位置する宙域がその恩恵を最大限に受け、
新たな開発拠点としての役目を担うロケーションとして、大きく躍進することは、自明であった。
政府と、”現在の”最貧区画・・・しかし、トレードオフとしての将来を確約されていた区画・・・。
何がどこでどう食い違ったのか・・・。
しかし・・・永い人類史を紐解けば、それはありふれた錯誤の一つでしかないことも、
また、明白であった。
とにかく、紛争は勃発してしまったのだった・・・。
地球連合は、宇宙に対し、何らの戦力整備も行っていなかった。
不要であるばかりでなく、「ない袖は振れない」のだった。
そんな余裕があれば、少しでも開発余力に、また宇宙市民への供給に注ぐであろう。
地球・月圏は十分養われており、宇宙進出、開発はその余力を以って行われたいた事実はあった。
或いはその構図が、不均衡、不公正に写ったのかもしれなかった。
トルーニア軍は、全く抵抗手段を持たない周辺宙域を武力により恫喝、
順調にそれらを自勢力に組込みつつあった。
一方、地球連合政府は、苦しい決断を迫られていた。
軍事力を整備し、これを制圧する。
それは、宜しい。造作もないことに過ぎない。
が、
戦争により荒廃した宇宙を再び復興する。
これもまた、地球連合政府が自身で取り組まねばならない・・・。
”戦争”、というムダ、”軍備”というムダ・・・。
地球連合は、これをどうしても忌避した。
かつて、国連軍を先制無血攻撃で破った記憶が、或いは何処かに残滓となっていたのか。
公国代表部と連合政府の間で、遂に会合が持たれ、
「南極条約」と称されたこの会合で以下の取り決めがなされた。
1.外惑星系への開発を一事緩和し、リソースを、地球、月、コロニー郡へ均等配分する努力に勤める。
2.1項の達成に、公国は現在の軍を解体し、物資の流通、搬送に協力する。
3.公国が現在、実効支配している宙域の統括権は、これを公国に永久に割譲し、公国側の責任に於いてこれを統治するものとする。
他、細則も設けられたが、以上3項がその主文であった。
戦争は回避された・・・連合政府が安堵した直後、それは敢行された・・・。
トルーニアによる先制奇襲攻撃。
その最も大規模な暴挙・・・、そう、「島爆撃」である。
広範な生存圏を確保したものの、当然、公国はこれらを”喰わせて”いく余力を持ち得なかった。
持てるものから奪う以外の方法は無かったのだ。
何の抵抗手段も用意していなかった連合政府は恐慌状態に陥った。
マスドライバーやスカイフック等を緊急の質量兵器としてこれを迎撃したが、
むしろ、徒に人工島を断裂、分断、被害を拡大させるだけの結果に終わった・・・。
遂に、戦争回避の幻想は破られた。
連合政府は、この虚妄以外の何者でもない泥沼に、遂に足を踏み入れざるを得なかった。
そして・・・。




