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爪 その①


「……ここは汚染が酷いな」

白い毛とフロックコートに覆われた獣は呟く。

「やっぱり最近出たっていう個体のせいですかね?」

その人型の獣の後ろについている海獣は、白と黒の模様があり所々にヒレが付いている。スリーピーススーツを着ていてかなり大柄だ。

「さあ。だが、もしもそうだとするとかなり面倒臭い。お前くらいなら、サンドイッチになっちまうだろうな…」

はは、と人型の獣が笑うともう片方の海獣は姿に似合わぬ高い声で「そんなにですかァ!?」と声を張り上げた。


雪景色に混ざる【コバルトブルー】。

神秘的な宝石のように輝くその青々は、廃れた街に醜い汚れとして其処に有った。







…頭痛が痛い。

あれ、頭痛と痛いって同じイミだっけ……

とりあえず私は起き上がる。

辺りを見回すと、ボロボロの廃墟みたいな所で、カンタンに崩れそうな建物だった。

…どうやってこんな所に来たんだっけ。

そういえば、名前も思い出せない。何をしていて、どこに住んでいたかも分からない。


………『キオクソウシツ』ってヤツだな、これ。


とりあえず自分を見てみる。

赤いマフラー、カーキのフォックスコート、グレーのロンT、焦茶のカーゴパンツ。手に指抜きグローブ、髪は白髪。

洗面台のような部屋に鏡があったので、顔も確認してみる。

日焼けなんて知らなさそうなくらい肌が白く、目が赤色。こんな所に居たのに髪もサラサラだし、肌荒れもしていない。おまけに背が結構高い、160くらいはあるぞ……。

…いやあ、私ってこんなに美人だっけ……?

元々の顔を思い出せないから分からないけど。



突如轟音が鳴った。

ほんとにいきなり過ぎる。心臓にワルい。


あわてて外に出てみると、シロクマの獣人とシャチの獣人と、目が痛くなるくらい青いバケモノ。

目がない肉食恐竜みたいな見た目に1本角、腕が無い代わりにスカイフィッシュに似たヒラヒラが肩に付いていて大きい足があって、体全体から目に悪いくらい青い粘液を垂れ流している。


「ち、ちょっと齋藤さん!あそこに誰かいるんですけど…!!!」

「ッ、…わかった、お前はそいつを安全な所に連れて行け。この程度ならひとりで問題ない。」


シャチの人が私に駆け寄ってきた。大きい。200以上はカクジツにある。

「ほら、早く逃げてください!あの大きさだと一般人には危険すぎますって!!」

一般人、ってことはこの人たちはなんか特別な人なんだな、と呑気なことを考えていたら。


ドゴオ、と傍でさっきの廃墟が跡形もなく潰れた。

「へ、」と自分でも情けなく思うような声が漏れ、呆然と立ち尽くしているとシャチの人に抱えられた。

「だから言ったじゃないですかあ!!ぼくや齋藤さんならまだしも、あなたくらいの小柄な人は一溜りもないですよ!!」

確かにそう思う。あのバケモノが粘膜のブレスを吐いているみたいで、それが廃墟に直撃したみたいだ。

「あ、あれなんなんですか?アニメやゲームで言うモンスターってヤツですか……?」

ありゃ恐らく現実の生物じゃない。そう思った私はこのシャチの人に聞いてみることにした。

「アニメとかゲームとかはよくわかんないですけど、あれは【(クロウ)】って言うんです。」

「爪……?でもあれ、そんな爪要素ないですけど…?」

「名前の由来はよく分かってないんです。ただそれがいる、って伝わってただけで……あ、ぼくそろそろ参戦しないと!そこから動かないで下さいよ!!」

そう言ってシャチの人は走って行ってしまった。


さっきのシロクマの人…齋藤さんは、空中で生成した氷のミサイルのようなものを次々とぶつけたり、地面から氷柱を生やしたりして追い詰めている。いわゆる氷属性ってヤツだろうか。今は雪が降っているし、凄く様になる。

シャチの人は水を扱っている。高圧洗浄機よりずっとヤバい勢いで手や何も無い空間から発射していて、同時に足を粘液に取られないように水で押し流している。さすがシャチと言うべきか、頭の回転が早い。

このままいけば、倒せる……!

とサッカーを観戦する気分で眺めていた。


また1つ、轟音が鳴る。

さっきより大きい。

「ッ、ウッソだろ……!!」

そう、さっきより音が大きいということは。


「グオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」


姿かたちは同じ。

でも、この戦ってる個体より、大きい。

「えっ、齋藤さん!!この辺りにあんなでっかいのが居るんですか!!?」

「知らねえ、こんなにでかい個体…どうなってんだこの土地は!」

どうやら予想外でヤバいらしい。

更に大きいのがもう一体増えたせいで、どう見ても戦況は悪化している。


何も出来ない事がもどかしい。

ずきり、と頭痛がした。

こんなことを体験したことがある 記憶が


『××××!状況は!!』

通信機から男の焦った声。

辺りには悲鳴、怒号が響く。

爆発音。

『ーーー………』

声がしなくなった。

私はただ、そこにいるだけ。

左腕が熱い。

右手には鉄の塊が握られていた。

それを、頭に、当てて。


「ッ、」

私は唐突に流れてきた意味のわからない情報に、驚いたのか怯えたのか、腰が抜けてしまった。

私は何を持っていた?


「おい麗眞(れいま)ッ!そっち行ったぞ!」

「分かってますけどォ!!2人で倒し切れるんですか!?このサイズだと最低5人は……!」

「やるしかねえんだよッ!!!」


私もあんな風に氷を操れたら。

あんな風に水を使えたら。

…ただ拳を握ることしか出来ない。


「クソ、デカすぎる………!!!」

「!そこ、粘膜が!!」

齋藤さんが足を取られてしまった。

まずい。

まずい。

私もなにか使えないのか。

もうなんでもいい。

なんでもいいから、なにか出てくれ。

縋るように、右手を伸ばした。




どかん。





…………何が起きた?

ギュッと閉じていた目をゆっくりと開ける。


粘膜に足を取られたまま私の方を見ている齋藤さん。

青黒い血のような液体を勢いよく首元から吹き出して地面でもがく青いバケモノ。

そして私の手には、


記憶の中で見た、鉄の塊。


拳銃が握られていた。



初投稿です。次の投稿はいつになるかわかりませんが、もし『面白い!』と思っていただけたら幸いです。

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