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12 聖女の魔法の時間

それは、幾千幾億の星や星座全てを合わせても足りない輝くブロンドの髪に、深海の底の一番清らかな部分のみを掬いとったような澄んだブルーの瞳は全てを許してくるようだった。


「夢じゃない……」

ジュエルはフラワーを前に心の声が漏れてしまった。

「これは、失礼致しました。従女の方には入室の許可を頂いたのですが……あまりにも素敵な寝顔だったので魅いってしまいました」

フラワーが悪気はなかったと謝罪する。

「あっあっあっあああ」

ジュエルは状態異常《混乱》、《金縛り》にかかったかのように言葉を失った。

「あのー、本日は御礼に伺ったのです。ウェンリーゼにジュエル様お手製の薬の数々をご寄付頂いていたのに、ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありませんでした」

「いや、いや、いや、いや、全然ぜん、申し訳なくもないです」

ジュエルの状態異常の効果が薄れてきた。


実はこれは従女マロンが関係している。

ジュエルの傷薬、万能薬、滋養強壮薬、風邪薬、熱冷まし、毒消し薬等は、市場では大変高値で取り引きされてた。


マロンは、学園の貴族達にご挨拶にと配っていたのだ。


貴族社会で普通、金品であれば賄賂と見なされたりするが薬はあくまでもジュエルのお手製なのだ。


要は令嬢が気まぐれにお菓子を焼いて仲の良いお友達に配りますのような感覚である。

薬とは可愛らしさも色気も何もないが……


ちなみにグルドニア王国では聖女の薬は安心安全のブランドであった。


なぜなら、薬とは薬師秘伝の技であり、作るものによって製法が違うため、効果にバラつきがあったりするのだ。


ジュエルの薬は一級品だった。

また、男性、女性、子供、高齢者によって規定量が決まった。誰にとっても毒にならない優しい薬だった。


その薬をマロンはウェンリーゼに九割、残り一割を他の貴族に渡すように手配していた。

ウェンリーゼには定期的に……


配布の名目としては、「神託でございます」

完全なる贔屓であったが、誰も文句をいうものはいなかった。


マロンは一応ジュエルにも、報告はしていたがドレス製作に頭がいっぱいで聞いたそばから頭にはなかった。


「私も、ジュエル様を見習って学生生活最後の一年で薬学には力を入れたのですが難しいですわね。御礼をなんていっておいて差し出がましいのですが、色々と薬についてご指導頂ければと思いまして」


「ひゃっ! ひゃい! よ! 喜んで! 」


ジュエルは神々とマロンに感謝した。


2

「まぁ、そうだったのですね。ジュエル様は本当に博識ですわ」


「ひゃっ! はひーっ」


ジュエルはフラワーと薬学について語り合った。薬や素材の話をしているときのジュエルは、スラスラと言葉が出てくるが、いざ、フラワーの顔を見るだけで心の臓が飛び出しそうになる。


幸せな時間だった。


魔法のような時間だ。


ジュエルにとって今この瞬間は、フラワーを独占していた。

この十畳に満たない部屋が今のジュエルにとって、目の前にいるフラワーが世界の全てだった。


「あああ、何か飲み物でも」

ジュエルはお茶を出していないことに気づく。ジュエルはフラワーお姉さまに対してなんたる失礼をしたのだろうと、慌てる。


「ジュエル様、そんな急に来たのは私ですし、どうかお構い無く」


「……」

ジュエルは一気にテンションが下がった。

公爵令嬢であるジュエルはお茶の入れ方が分からなかったのだ。


いつもなら従女のマロンが最高の温度で香りの良いお茶を入れてくれる。

ジュエルは情けなかった。

自分は大好きな推しに茶の一つも淹れない役立たずなんだと、生きている意味がない、消えてしまいたい、ジュエルの感情が負のスパイラルに入り始めたときに……


「差し支えなければ、私にお茶を淹れさせ頂いても宜しいでしょうか。ジュエル様と違って辺境の田舎の出なので、お茶を淹れるのは得意なのですよ」

フラワーが慣れた手つきでお茶の準備をする。

「あああ、てっ……手伝います」

ジュエルが慌てて手を出そうとしたところで


ツルッ、ガッシャーン


ジュエルは青ざめた。


ジュエルはフラワーの服を茶で汚してしまった。

「あっあああ、スミマセン、スミマセン、スミマセン、スミマセン、スミマセン、うっ……うっ……うあぁぁぁん」

ジュエルはかつてないほどに混乱した。

ジュエルは泣いた。


「大丈夫ですよ、ジュエル様、それよりもお怪我はございませんか? 」


「うっうっうっうっ、大丈夫……です……うあぁぁぁん」

フラワーの優しさがジュエルの心に余計に沁みる。


コン、コン


ノックとともに従女マロンが部屋に入ってきた。


「失礼致します。ジュエル様いかがいたしま……まぁ、フラワー様の御召し物が! これは、大変ですは! 急いで着替えを! 」


「あっ、ですが、さほど汚れておりませんし、ただの普段着ですから」


「そうは参りませんわ! ここで、何かありましたらそれはダイヤモンド公爵家の名折れ! ああ、そうでございました。宜しければ、ジュエル様! あのドレス等着ていただければ」


マロンがジュエルに最高のお膳立てをした。


ジュエルは泣き止んだ。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


ジュエルの心の臓がかつてないほどに鳴っていた。


年内には終わりそうにないです。

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