62/138
『大事な資料』
シエルの指が音もなくまっすぐ立ってられ上をさす。
「 『空の上』ってことだ。《オヴァーランド》より上らしいってことだったけど、それってこの整った世界じゃもう、《オヴァーランド》や《ビロオランド》と同じ、昔話だね」
言ってから、手にしていた古い紙にシワがよってしまっているのに気づき、あわてて机でのばした。
「あたしとしたことが、大事な資料を」
ジャックにおこられてしまうね、とのばした紙をロジーにわたす。
「 ―― シエルが、ここの資料をジャックに頼まれたときって、この世界はどうだったんだい?」
ロジーの質問に、シエルは白くて固い尖った頭をこつこつたたいた。
その身体は細くどこも石とおなじように固く、頭になる部分は水滴のような形をしていて、つるりとしている。
外からみえる顔はなく、どうやらその水滴のような部分の中におさまっているようで、声は水滴の下、首になるあたりからもれるように聞こえる。




