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『おもり』
だが、この年寄が若かった頃なら、それは、『けんか』というレベルではなかっただろう。
そう聞くと、当然だというように鼻の穴をふくらませ、あのころはすべての『いざこざ』が命がけだった、などと拳をふりあげた。
「その、『命がけ』の中で、ツボからだしてやったんですか?どうやって?」
「わしのお守りの炎で、口をあけてやったのさ」
そういって棚にある空のランプをゆびさした。
『お守り』というのは昔の人たちが、炎や水や風などの精霊と契約していたもので、主従の関係というよりも、精霊の力を借りていた、といったほうがいいようだ。
いまでは金銭のやりとりをするその《契約》をしているのは、金持ちの連中ばかりだ。
精霊だって、ほんとうの『お守り』をするよりも、飾られて自慢されるだけの、楽な仕事のほうがよかったのだろう。




