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記憶
『覚えていないなんて、ほんとにきみはおめでたいですね』
ランプのガラスの中でゆれる青い火が、ゆれながらしゃべる。
これが、噂に聞く『お守り』ってやつだろうか、とロジーは考えた。
ランプをわざとゆする男が肩をすくめる。
「都合の悪いことは、記憶から消去するようにしてるんだ」
『 記憶から消去しても、きえない現実っていうのが、きみにはありますけどね 』
ややあきれたような火の言葉を無視した男は、むこうで子どもを囲う群衆に目をむけた。
兵隊たちと、正装の金持ちたちが、このひどい雨の中にいる。
男たちのハットにあたる雨が、おもしろいほど音をたて、なんだかこの場面に会わないほど滑稽だった。
だが、ロジーいがいそのことを、今気にしている者はいないようだ。