9話 好物
「いつまで落ち込んでいるんだ
貴様の仲間にかけた『時止まり』の魔法はもう解けているだろう」
落ち込むとかでは無い…
頭が混乱しているだけ
私はどうするべきなのか
仮に上手くここを脱出出来たとして
この魔王は再び国を襲うだろう
下手したら皆殺しに…
それに帰ったら、
ミドルと結婚しなくてはいけない。
かと言って、ここでバベルと暮らすのか…
バベルが奥の部屋から何かを持ってきた
「シチューを作ったから食え!
貴様ら人間は沢山食わないと死ぬんだろう
死なれちゃ困るからな」
バベルが持ってきた皿には
…ドロドロのシチュー…?
灰色に近い濁った色のスープ
かろうじてわかるコオモリの翼の骨
家畜でももっとましな食べ物を与えてくれるだろう。
私をいたぶって楽しむのが目的なの?
そんなのには屈しない!
皿を叩き割る
「食べられるかぁ!」
「な、何てことすんだ!
我がせっかく作ってやったんだぞ!」
バベルの事は無視して
再びどうするべきか考える。
「勝手に野垂れじね」
バベルが部屋を出てバタンと扉を閉める。
バベルが出て行った方向を見た。
出て行ったって事はここには他にも部屋がある。
散らばった皿の破片と禍々しいシチューを見て
キッチンのような場所もある…
あといくつ部屋があるのだろうか?
ここはどこなのか?
なぜ、バベルの物らしきものがこんなにある?
グゥーキュルル
お腹が鳴った
…お腹が空いては頭が働かない
バベルが出て行った扉を開けてみる。
そこには思った通りキッチンがあり
他にも扉があった
扉の先が気になったが
とりあえず台所を漁ってみた
食材は何もない…
かろうじてある薬草の数々
鍋に大量にある禍々しいシチュー
「このシチュー原型がなくなるまで煮込んである
何時間煮込んだんだろう」
バベルの言葉が思い出される。
『人間は食わなきゃ死ぬんだろう』
魔人は食べる必要が無いのか?
「つくっとこともなんてないはずなのに…」
シチューに指を突っ込みなめてみる
「まっず…」
そういえば、昔アルさんに薬草の知識を教えてもらった気が…
「確か、臭み消しにはエンチャンティカの根をすりつぶして…
この薬草もよくわからないけど良い匂い
あと… 」
バベルの声が聞こえて来た
「けっ なんなんだあの女、折角作ってやったのに。
あのクソババァも『あなたが連れてきた方、責任を持ちなさい』だ
我を誰だと思っているんだ!」
バベルが愚痴をまき散らしながら扉を開けて入ってくる。
「なんだ なんだこの香りは…?」
「元があれだから美味しいかわかんないけど
一応作ってくれたお礼と床にこぼしたお詫びよ」
少し照れながら、バベルの前にシチューを出した
「食べ物は命 命を頂いたからには
美味しく頂かなきゃいけないのよ」
「だから我は食わなくても生きていけ…」
「いいから食べなさい!」
「は、はい…」
私たちの間に緊張が走る
色々変えたからといって、
あの禍々シチューが美味しくなるのだろうか
恐る恐る口に運び、
バベルと同時に食べる
「うまい」
「まずい」
バベルがどんどんかきこむ
「食べるって こんな気持ちになるのか」
バベルは食べ終わり私の方を見てきた。
私はお腹が空いていた分だけは何とか食べ終えた。
「これも食べていいよ」
「そうか、そうか」
そういうと、目の前の皿がふわっと浮いて
引き寄せられるかのようにバベルの前に着いた。
それもペロリと完食してしまった。
ここまで幸せそうな顔をしていると毒気を抜かれてしまう
「いやー うまかった!
食べるって幸せなんだな
貴様の分も食べてしまったな
そうだ何か下界で食べたいものはあるか?
盗ってきてやろう
我も数千年ぶりに食べると
久々に好物のマロンパイでも食べたくなるな」
名前がバベル
好物がマロンパイ
間違いない。
この魔王は私の大好きな小説に出てくる王子。
あの小説は事実
敵国は魔国だったんだ…
でも、そうだとしたら…
「ほっほほ
バベル様よ、この者ですか?」
奥の部屋から老女が現れた。
老女…いや魔女
かなりの年齢を重ねているように見える。
彼女の目は深い闇を湛え、
知恵と秘密を宿した知的な輝きを持っている。
時折、複雑な感情が浮かび上がり、
心の奥に何かを隠しているかのように感じられる。
「わしも年じゃ…最近腰が痛くてのぉ…人手が欲しかった所じゃ
小娘や、あんた、今日からあたしの下で働くんじゃ」
「おい、こらばばぁ!
我の嫁をばばぁの下で働かせるっていうのか!」
自分の国には帰れない…
かといって、この人間の王女好き魔王と暮らすのも嫌た…
私にはここにいる理由がちゃんと欲しい。
「分かりました!
私おばあさんの下で働きます」
「ほほほ、おばあさんとは、生意気な小娘じゃ
ソフィア姉さんと呼びなさい」
「よろしくお願いします、ソフィア姉さん」
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筆者が泣いて喜びます。
⚫︎最恐オーガは他種族女子と仲良くなりたい 完結済
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他種族の接触が禁じられた世界
最恐のオーグンが他種族の女の子と仲良くなりたくて人間の王子と旅をする物語です。
お馬鹿で変態だけど純粋なオーグンの冒険を覗いてみてください。




