31話 城に帰る
マリア視点----------------------------------------------
「ひ、姫…一緒に帰ろう」
私はミドルの言葉にこの上ないイラつきを覚え
ミドルの顔を重いっきり蹴っ飛ばす。
ドゴっ!っと鈍い音が響いた。
バベルですら少し引いている。
「ミドル!大丈夫?…ちょっとマリア何てことすんの?」
レイナがミドルに駆け寄る
「ひ、姫…」
「ミドル、あんたが殺したソフィアは私の大切な人…
だから私はあなたを絶対に好きになることなんてない
分かったら帰りなさい。
あんたにはあんたを思ってくれる人がいるんでしょ?」
ミドルはレイナを見る。
「それで、あんたは誰?何の為に戦うの?」
「俺はライル、盗賊の頭で魔王討伐した際に恩赦で一家を街に住まわせられるから戦う」
「そう
バベル、あんたここに名前を書きなさい」
「おい、これなんて書いてあるんだ?」
「良いから書きなさい!」
「お、おう」
そう言うと バベルは紙に名前を書いた
「じゃあ、あんたがこれを渡しなさい。
バベルが今後人間に手を出さない誓約書よ
恩赦が望みならあんたが渡せば望みどおりになるでしょ」
「まぁ…そうだな」
「おい、マリア聞いてねぇぞ」
「あんた、私との約束守れなっていうの?」
バベルは一瞬渋い顔をしてふっと笑った。
「レイナ、後の事は頼んだわ。
私はもうそっちには帰らない」
レイナは瞳に涙を溜めた
レイナは私の家族で親友で理解者だ。
彼女ともう会う事が出来ないと思うと
決心は揺るがないまでも寂しさが込み上げる。
私は直視出来ず目を逸らす。
「最後だというなら目を逸らすな
この光景は貴様にとって一生忘れられないものになる
しっかり目に焼き付けろ」
バベルの重みのある言葉が胸に刺さる。
私は顔を上げた。
凛としたレイナがそこに居た。
数刻、視線が交わう
二人だけの時間
言葉無く、後悔も無く、ただ見つめあう。
そしてレイナはミドルの方へ
私はバベルの方へ踵を反した。
「帰るわよイリシアス!」
イリシアスはふっと現れた。
「マリアさんカッコいいね」
「黙りなさい、とっとと帰るわよ」
そうして私たち三人はバベルの城へ帰っていった。
私にとって何が良いのか分からない。
憧れていた先代が願っていたように、
この先バベルと生きていける
そんな気は全くしない。
それでも私は救われた。
鳥かごの中で生き、それが嫌だった。
私を解放し、思うように生きて良いんだと教えてくれたのはバベルだ。
バベルが人間の国で暴れないとし
伝承は意味を無くしたため、私はただの人間。
王女という肩書の庇護感はもうない。
そんな人間が一人この国に残るのは不安である。
この先どうなるのか、どうしたいのか分からない。
それでも前を向いて歩ける。
それだけで良い。
自分に選択肢があって、自分で選べ、自分で責任を取る。
普通で当たり前の事が出来る。
私は生きている実感がある。




