20話 盗賊大頭ライル
夕日が沈み、闇が訪れると共に、野宿の準備を始めた。
広い草原の中に身を置き、
夜の冷たい風が吹き抜ける中でキャンプを築いた。
レイナにとっては初の長旅
疲れたのだろう、日が沈むとすぐに寝てしまった。
思い通りにいかない焦り
姫は無事なのかという心配
頭の中をぐるぐる回っている。
夜、暗闇になると
暗闇が幻想を作り出す。
何度も姫が連れ去られた時の無力な自分が甦る
魔王に対する憎しみが湧き上がる。
「いや…今はライルだ…
ライルの事だけ考えよう…
ライルは何を求めていたんだ…」
焚火を眺めながら考えていると隣にアルが来た
「ミドル、お前は何で盗賊をやっていた?」
「何でって…それしか生き方を知らなかったから」
「そうだ、大抵のやつが生まれた環境に縛られる」
「……」
「だが、ライルは他の世界を知っている
他の生き方が出来ないような小さい男ではない」
「じゃあなんで盗賊なんか…」
「それはお前の方がよく分かるんじゃ無いのか?」
「盗賊をあえてする理由…
分かんないけど、少し分かった気がする
ありがとうアルさん」
「…俺は早く帰って人形に会いたいだけだ」
翌日、再びライルの元に向かった。
「で?何の用だ?
本当に戦争しに来たのか?」
ライルは変わらず女性を両手に軽やかに座っている
ライルが盗賊をやる理由…
「ライル!僕とくればここにいる全員が盗賊として生活しなくても良くなる!
僕と魔王を討伐出来れば君は英雄になる
盗賊から英雄になるなんて浪漫があるだろう?」
盗賊は一家だ。
僕が彼なら家族を置いて自分だけ他の生活は出来ない。
「はっ!それはてめぇが討伐したらの話しだろう
それにまだ正解じゃねぇ 半分だ
そこにいる鎧の色っぽいねぇちゃんが旅のお供になるなら
もう半分は許してもいいがな」
レイナは全く興味が無いようにそっぽ向いている。
「残念、一番簡単な条件だったんだがな」
ライルは口を窄めおどけたように両手を開いた。
ヴヴヴヴヴ
その時周囲の森から妖しげな音が響き渡った。
「ちっ…流石に読みが甘すぎたか…」
ライルが独り言の様に呟く
草むらに隠れた魔物たちが、狡猾な目つきで僕らをを狙っている。
10近くいるだろうか
枝がこすれる音や風の吹き荒れる音が、一時の静寂を破る。
ライルは空中に飛び上がり、クルンと一回転すると
細い針のようなのをバラまいた。
そのまま華麗に着地すると
「弓使いのねぇちゃん、13匹の魔狼だ全部覚えたな」
「何であんたに指図されなきゃいけないのよ」
と言いながらもライルが投げた方角に向かって弓を撃ち出した。
二度目の矢が放たれ
断末魔の二回目が聞こえると
魔狼は一斉に掛ってきた。
「馬鹿ども一対一で戦うな!
二方向から足止めしろ!」
そう言うと盗賊たちは分かれ
魔狼達を足止めした。
その足止めした魔狼達をレイナとライルと僕で狩っていく。
案外簡単な戦いだった。
僕らが強かったのではない。
だが、盗賊たちは九死に一生を得たような顔をしている。
最後の半分が分かった。
ライル以外の盗賊は弱すぎる。
今の魔物でも、他の同業者でも、村の自警団
ライルが居なくなったら旅を終えるまでに
この盗賊は壊滅するだろう。
ライルは盗賊に収まる器では無い。
だが、ライルにとって家族を守るのは当然の事。
ライルを連れていくのは不可能だ。
諦めて立ち去ろうとしてた時
「大頭、行ってください!」
「そうですよ!この場に2度も招いたのこいつらだけじゃ無いですか」
「昨日の夜子供みたいにわくわくして寝れていないの知っているんですよ」
盗賊達がライルを後押ししだした。
「てめぇだけで生きていける訳がねぇだろう?」
そうだ、ライルがいるからこの盗賊は一番繁栄している。
「もううんざりなんだよ!」
盗賊の一人が思いがけない言葉を発した
「大頭はいつも正しいから俺らは何もしなくなっていく
全部大頭に任せて自分は責任を負わず楽しようとしている
自分が情けないんだ!」
確かにライルは別格だ。
別格で身内に優しいから身内が腐る。
魔狼との戦いも、他の盗賊が弱いのではなく
何でも一人で出来てしまうライルが他の盗賊を弱らせている。
確かにライルがここを出て行ったあと盗賊の大多数は死ぬかもしれない。
でも、どの道おんぶに抱っこだと、彼が怪我でもしたらすぐに壊滅してしまう。
「てめぇら…」
「で、出ていけライル!」
「出てけ、出てけ」
盗賊達の声が響く
ただ、言葉とは裏腹に皆泣いていた。
「ちっ、自分の盗賊団から追い出されちまったぜ…
なぁミドル、今度はお前が俺に浪漫を見せてくれるのか?」
「ああ、僕は必ず魔王を倒す」
ライルは二ッと笑うと僕たちの旅に参加した。
「これで人は揃ったか
それで、俺らは魔人との国境を渡る
俺も何が起こるか分からない」
アルさんがそう言うと
「あんたがリーダーじゃねぇのが不気味だぜ」
「なによ、あんただってミドルに説得されたんでしょ?」
「…まあな、そうゆうことにしといてやるよ
そんなことより、ねえちゃん旅の間…」
ライルが振り返るとそこにはレイナの姿が無かった。
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⚫︎最恐オーガは他種族女子と仲良くなりたい 完結済
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他種族の接触が禁じられた世界
最恐のオーグンが他種族の女の子と仲良くなりたくて人間の王子と旅をする物語です。
お馬鹿で変態だけど純粋なオーグンの冒険を覗いてみてください。




