13話 城内の夜襲
今日は疲れた。
ソフィアもそんな私に気を使い、
自室で夕食を食べさせてくれた。
名前は分からないが
フレッシュな野菜と肉料理がテーブルに並べられ
見た目も鮮やかで、香りは官能的で誘惑的だった。
味は凄く美味しかった。
一緒に運ばれてきた飲み物は果物のジュースだと思っていたら
苦い味がした。
おそらくアルコールなのだろう。
少し頭がクラクラしてしまい
そのまま寝てしまった。
気が付くとベッドに横になっていた。
部屋の食事は片付けられていた。
あまり記憶が定かではないが食事を残してしまった。
深夜の城内は、静寂と美しい明かりが調和していた。
日中の汚れを流す為
部屋にあるシャワーに入ることに。
服を脱ぎ、シャワーの水を開けると、
最初は冷たい水が身体に触れたが
すぐに温かいお湯が流れ出し、
身体を包み込み込んだ。
魔法の力か分からないが、
とても心地の良い湯であった。
髪を濡らすために頭を後ろに傾け
シャワーの水流に身を委ねる。
目の前に人影があった。
「きゃ…」
叫ぼうとした瞬間に口を塞がれた。
2人居たのだ。
せめてもの抵抗で胸と股を手で隠した。
奥に佇む筋骨隆々の魔人と
私を捕えた長髪で無駄のない身体の魔人
この二人、見覚えがある。
魔王軍の幹部だ。
「動くな」
私は状況が読み込めなかった。
部屋の中央に黒い渦が生まれその中からバベルが現れた。
「何事だ!」
バベルは私の姿を見るとすぐに目線を外した。
「ザマザ、ナイフェル貴様ら我の事を忘れたのか?」
バベルが怒っている。
「忘れちゃいないさ!
だからこうしている。
魔王様、あんたよりイリシアス様の方が正しく導いてくれる」
筋骨隆々のザマザが答える。
…それは同感なんだけれども…
まさか、イリシアスの指し金…?
昼間はあんな話しをしてくれていたのに…
でも、実際気が付いて来てくれたのはバベルだけ。
「魔王どうこうは今はどうでも良い
貴様ら我を怒らせてどうなるか分かっているのか?」
バベルの凄みに二人は冷や汗を垂らす。
「あんたの事忘れたわけじゃないさ
そう、ちゃんと覚えている。
今までのあんたならここに現れた瞬間
俺らを殺しただろう。
でも、どうだ、人間の人質一人取るだけで貴様は無力になる」
私を捉えているナイフェルが答えた。
「………」
「人間、肌は綺麗だが、
王宮にいる魔人の淑女と違い
俺は全く興奮しないがなぁ」
とナイフェルが私の首に立てた爪を押し立て
チクっと痛みが走る。
足元に赤い血がポタリと落ちた。
バベルは目線を逸らしたまま
怒りと戸惑いが混じった動揺した表情を見せた。
「グハハハまさかこんな日が来るとはな
ナイフェル、いいか殺す順番を間違えるんじゃねぇぞ」
それを聞くと手をぶらんと横に下ろし
バベルはふっと笑った
「貴様が我を殺すのか
ふははは
やってみるがいい」
挑発?本気?のバベルの言動にザマザはカチンと来る。
「魔人一番の火力持ちの攻撃を真正面から受けて生きていられると思うな」
とザマザは魔力を込めた拳を振り上げた。
「ちっ馬鹿、早えよ、ギリギリか…」
とナイフェルが囁き、
地面をダンっと足踏みすると
私たちの空間が結界で包まれた。
ズォゴゴゴオオオオン
結界の中は地震が起きたような地響きが起き
魔力が砂埃のように舞い散った。
「ば、バベル…」
砂埃が収まると顔を殴られたバベルと振り下ろしのザマザが立っていた。
「ほう、我の身体に傷を付けるとは
あの泣き虫ザマザがやるようになったではないか」
バベルの頬は赤く出血していた。
「ちっ殺すつもりで攻撃したんだが
硬すぎるな…でも…」
そう言うとザマザの凄まじい攻撃のラッシュが始まった。
右、左、力強く、豪快に放たれる拳は、
戦場に絶え間ない轟音を響かせる。
バベルも堪らず膝をついてしまう。
「…めなさい…
やめなさい!」
私の声が響き渡り、
ザマザも息を切らしたのか、
一瞬手を止めた
「確かに国の為にこいつがいなくなるのは賛成だけど」
「おい…」
バベルは腫らした顔で言った
「あんたたちのはただの復讐でしょ?
バベル!私の事は良いから反撃しなさい!」
閉ざされた結界内で私の声が響いた。
バベルはちらっと私のほうを見ると
すっと立ち上がり
「もう終わりか?」
と言った。
「何で…?」
「グハハハそうさ、復讐さ、てめぇが封印される前
散々理不尽な理由でぼこぼこにされたからな。
今のてめぇの様にな」
そう言うと再びラッシュが始まった。
な、なんで…
バベルがおかしい…
誰よりも強く、横暴なバベルが
私の為に殺されかけている。
それにそれ以上にバベルを心配して
自分の身よりバベルの心配をしてしまっている私もおかしい
バベルが傷を負うたびに私の胸も痛む。
「やめて、やめて、やめて」
神なんか信じていないのに願うしか出来ない…
「やめてぇ!」
その時光が一閃、私の天井から煌めいた。
「ナイフェル殺せ!」
そう言うと私以外の者の時間が一瞬止まった。
バベルが魔法を使ったんだ。
だが、高度な魔法は幹部程の魔人にはほんの一瞬の効果しかなかった。
その一瞬が私を救ってくれた。
私の頭上から光が舞い降り
私の首にナイフェルの爪が数センチ刺さった後で腕がボトンと落ちた。
振り返るとナイフェルの姿は無かった。
…!?
背後から私に優しく衣服が掛けられた。
ザマザは尻もちをつき放心状態になっている。
バベルはそんなザマザなど視界に入らず
這いずりながら私の元へやってきて
抱きしめた。
「良かった…」
とだけ言うとバベルは気を失った。
「お兄様のこんな姿を見ることになるなんてね」
そう言うとイリシアスは私とバベルの横を通り過ぎ
放心状態のザマザの所へ行くと
「僕が居ない時を狙ったのは良いけど
お兄様をまだ甘く見てたね」
まばゆい光が包まれた。
「はい、でも満足です」
ザマザは最後に笑っていた。




