12話 イリシアス
私は夜遅かったため
そのまま寝室に案内された。
魔王の城は私たちの城に比べ案外質素であった。
魔人の寿命が長い分物も物持ちが良いのか
とても古びた雰囲気だった。
特に凝った装飾品も無い。
翌朝、玉座に案内された。
人型になったイリシアスは髪が白いからなのか
振舞いなのか、バベルより若干大人びた雰囲気であった。
周りには魔王軍の幹部、4人の魔人が跪いている。
そのうちの一人はソフィアだった。
他の3人は異質な雰囲気を醸し出している。
質素な城内の中、中央の玉座だけは変な装飾が施されていた。
イリシアスは玉座に座らず、立ちながら私と同じ目線で話し始めた。
「マリア様…まずは深く謝罪をさせて下さい…」
そう言うとイリシアスは頭を下げた。
カツンカツンと大きな足音と共にバベルが入ってきて
私たちの横を通り過ぎてドシンと偉そうに玉座に座った。
「イリシアス!
我はマリアと結婚することにしたぞ!
国をあげて盛大に祝うのだ!」
「ふざけないで下さい!」
「なんだイリシアス!
各地を放浪して遊び歩いていた貴様が
何故今更魔王の我に口を出す」
「自分だってやりたくてやっているんではないんですよ!
お兄様、2000年前あなたが勝手に人間の国に攻め込んで
勝手に封印された後、自分が呼び戻されて色々と事後処理させられ…」
昨日の祭りはイリシアスの功績を称えた祭りだったんだ。
暴君兄に比べ弟はなんてよく出来た人何だろう…
イリシアスが居てくれるなら
私も安心して人間の国に帰れるかもしれない。
国に帰る…
国に帰ったところで…
シチュー…不味かったな…
でも、自分が作ったのを美味しいと食べてくれたのは嬉しかった。
祭り…花火…
バベルとの思い出…
ソフィアを見る
バベルとイリシアスが言い合いをしている中
彼女は微動だにせず跪いたまま動かない。
ソフィアにもソフィアの村の人たちにも
ホントの孫のように可愛がって貰ったな…
まだ数日しか経っていないけど
こんなに感情が動かされる事無かった…
「マリア様、あなたも自国へ帰りたいですよね?」
私…私は…
「迷惑で無ければ、
もう少しここに滞在しても良いですか…?」
言いあっている二人は目を丸くした
「ま、マリア様、無理やりここに連れてこられたのでは?」
「はい…でも…
バベルと過ごす時間もなんだかんだ楽しかったし
ソフィア姉さんにもすごい面倒見て頂いて
本当のおばあちゃんみたいだから…」
「お兄様と結婚されるのですか…?」
「い、いや…
それは…分からないというか…
急には決められないというか…
曖昧な返事ですみません…」
徐々に小声になりながら、顔を赤くして答えた。
「……分かりました…
本来だったら伴侶しか城内に住まわせられないのですが
特別です。
その代わり、結婚する気が無いのなら帰って頂きます」
「あ、ありがとうございます!」
私はソフィアに泊った部屋に再び案内された。
「ソフィア姉さんすみません。
あんな厚かましい事言ってしまって」
「ええんじゃよ
それより儂が気にくわないのが、
儂をおばあちゃんだと!
お姉さんじゃろ!」
そう言われると自然と笑顔になれた。
やっぱりソフィアの事が大好きだ。
ソフィアはふうと息を吐くと
「曖昧な返事をしたことは気にするではない
なんだかんだいってイシリアス様ももちろん儂も
バベル様とお主が結婚するのを望んでいるのだ」
「!?? イリシアスも…?どうして?」
「言葉どおりじゃ。
それじゃあまたな」
「まって!」
そう言うとスルスルと地面に飲み込まれるように
ソフィアは消えていった。
ソフィアの言葉に少し疑問もあるけれど
イリシアスもバベルを見限ったら帰ればいいと言ってくれた。
良すぎる待遇に逆に不安になるけれど
ここに居ていいならプラスに考えよう
夕飯まで時間があるので、魔王城を探索してみた。
城内は広く、歴史的の経年的な美しさがある。
私たちの城には騎士と世話役の淑女が半数ずつ位居たが
ここではほとんどが淑女しかいない。
それも高貴で優雅な装いに身を包んでいて、
豪華なローブや流れるようなドレスがの美しい体を包み込み、
その存在感を一層際立たせている。
人間の私から見ても美しいと思える魔人ばかりだ。
城の屋上は美しく厳粛な雰囲気の庭園になっていた。
ここには誰もいないようだ。
人間の城もそうだったが、庭に人が来ないのは何故だろう。
こんなに心が和むのに。
と思っていたら、木陰で気持ちよさそうに昼寝している人が居た。
綺麗な銀髪の美しい青年。
イリシアスだ。
イリシアスは目を覚ますと立ち上がり
「ま、マリア様、何故ここへ?」
「私は居候なので様はやめてください…
それに、すみませんでした。
連れ去られたのに、ここに居たいなんて言ってしまって」
イリシアスは少し考え込むと
「そうだね…
僕も今日は畏まることが多くて疲れたし」
そう言うと大の字に寝転がり空を見上げぼーっとしだした。
さっきまでのしっかりとしていた彼とは大違い。
「マリアさんも寝転がりなよ
気持ちいよ」
私も言われた通りに寝ころんでみた。
気持ち良い
庭でのんびり過ごすのは好きだったが、
ここまでの事は出来なかった。
雲がゆっくり流れ、時間がゆっくり流れる。
そこでふと、ソフィアの言葉が思い出される。
「ねぇイリシアスさんは
私とバベルの事本当はどう思っているの?」
と聞くとしばらく沈黙が流れる。
無視されたのかと思った時
「僕は雲になりたいんだ」
「雲?」
「風が流れるままただ空を漂う
そんな生活がしたいんだ」
少し分かる気がする。
ここでただ空を見上げるだけの事がこんなに気持ちが良いとは思わなかった。
「でも、そんな生活をするにはお兄様が魔王として居てくれなきゃ出来ない」
「イリシアスさんは嫌々、魔王代理をやっていたの?」
「ははは、魔王代理ね。
そうだよ、本当は政治みたいなのはやりたくないさ」
「それで、人間と和平を結ぶなんて凄いね」
「凄くないさ、嫌々だからね
ずっとお兄様が帰ってくるのを待っていた」
「自分を振り回す人を待っているのってなんかおかしいね」
「……そうなのかもしれないね」
そのままぼーっと時が流れていると
夕食の鐘が鳴りお互い自室に帰っていった。




