11話 花火
夜が訪れると、
魔人の祭りの準備が整い始めた。
宮殿の中庭や広場は幻想的な魔法の輝石で飾られ、
夢幻的な光に包まれた。
祭りの始まりを告げる魔法の太鼓の音が響き渡り、
人々は輪になって踊り始める。
彼らの動きは優雅で魅惑的であった。
「なんて綺麗なの!」
「だろう!」
と何故が魔王が誇っている。
確かにこの国の王なら誇っても良いのかも…
「バベル様は祭りについて知らぬじゃろう
この祭りはバベル様が封印された後に出来たものだからな」
ソフィアが小さい姿で私の肩に乗っている。
魔法なのだろうか。
「おい!ババァなんで貴様もいる!」
「儂が居なきゃ祭りなんて回れる筈がないですぞ」
バベルは当初の面を被っている。
これでも変装用なのだろうか。
「ソフィア姉さんバベルが封印された後の祭りってどうゆう事?」
「人間はバベル様が封印されたのを祝って祭りをするんだったんじゃな
魔王国では、その後の人間と境界線を作った事を祝って祭りをするんじゃ」
「そうなの!
なんか、人間より素晴らしい理由ね…」
「おい、貴様ら我を放って話しをする出ない!
そうだ、マリア!魔物の肉は食ったか?
貴様のような食いしん坊にはお似合いだろう」
流石にカチンときた
ソフィアも頭を抱えている
「ソフィア姉さん、あんなやつ放っておいて
一緒にお茶でもしませんか?
魔人のスイーツ食べてみたいです」
「ほれみろ!食い物の事ばっかではないか!
貴様ら人間の女は食ってばかりだな
そんなだとオークみたいになるぞ
はっははは」
駄目だ、
こいつと居ると堪忍袋がいくつあっても足りない…
「おい、ババア、何でマリアはこんなに不機嫌なんだ?
お前のせいか?」
「いいえ、バベル様あなたのせいじゃ」
「何故だ!」
「あなたには女心というものが分かっていない
相手の気を引きたくてからかうなんて子供のやることじゃ」
うぐ、と
怒った顔をするもぐっと堪え
「ば、ババアどうすればいいんだ?」
「いいですか…」
内容まで聞こえていないけど聞こえている。
私はこれからソフィアが提案したデートプランを受けるのか…
バベルもほうほうとか何っとか言っている。
何をしてくるのだろうか…
いくらソフィアとはいえ怖い。
そうこうしているうちにバベルが近づいて来た。
「あ、あそこに甘いドリンクがあるらしいんだが
行かないか?」
めちゃくちゃ棒読みだ…
まあ、でも魔国の飲み物は気になる。
折角のお祭りだから楽しまなきゃ損よね
「しょうがないわね、
あんたのおごりならついて行ってあげる」
あえて、とげのある言い方して怒ると思ったら
案外嬉しそうな顔をしていて
こっちの毒気が抜かれてしまった。
屋台からは、あちこちで夏祭りの音楽が流れている。
太鼓の音や笛の音、何かしらのゲームのかけ声が聞こえて来る。
私たちは店でドリンクを頼んだ
ドリンクは甘くて滑らかな口当たりで、
心地よい刺激が口いっぱいに広がる。
「おいしい!
これ何が入っているの?」
と店主に聞いたら
訳の分からない単語を並べられ
全く理解が出来なかった。
バベルを見て見るとふむふむとか言っているが
こいつも確実に理解していない。
でも、とにかく美味しい。
子供たちは、お面やおもちゃを手に大はしゃぎ。
屋台でアメを取るゲームを楽しんだり、
魔物すくいをしている。
そんな子供達に混じって遊んでいた。
こんなに楽しい思いをしたのはいつぶりだろう。
思えば大人になればなるほど
自分より他人の幸せを願う様になっていた。
他人の幸せが自分の幸せなんだと思い聞かせて。
バベルもガキんちょの様にはしゃいでいる。
心地が良い…
ソフィアの助言など忘れているのだろうが
こいつの悪態もガキんちょだと思えば可愛く思えてくる。
夜の空が徐々に暗くなり、
屋台の灯りが一層輝きを増す。
人々はにぎやかに歌い踊り、
夏の夜を思い切り楽しんでいる。
「は、花火でも観に行こうか」
また、棒読みバベルが出てきた。
「花火か…うん!
よいね!」
空の色は、オレンジや赤から徐々に深い青色へと変わり。
夕焼けが薄れ、星が一つ、また一つと輝き始める。
夜空には月が出てきて、静かな光を差し込む。
夏の夜、バベルと小高い丘の上に座る。
他の魔族の男女や家族連れが沢山いる。
「私、こんな遠くから見るの初めて
なんか、花火よりこの周りの雰囲気がいいよね」
何でこんなところで見るんだ!とか
我らが一番良いところで見るんだ!
言ってきそうだったがバベルは大人しく座っている
星空が広がり、
遠くには花火大会が行われている会場の明かりが見える。
花火の音が遠くから聞こえだした。
遠くてかろうじて分かる位小さな花火だったが
上がった瞬間周りから歓声が上がった。
色とりどりの花火が夜空に咲き誇り、
美しい光の舞台が広がる。
人間の国でも花火は見たことはあったが
一番良い席で観ていた。
このように皆で遠くから眺めるのも趣がある。
「ね、バベル綺麗だね」
周りの恋人達に流されてか、
生まれて初めてトキメキトいうものを感じられた気がした。
幸せの気分だった。
と思った矢先バベルの表情がみるみる変わっていった。
「見えぬ…」
「え、あんた目が悪いの?」
ドンドンイライラした顔に変わっていき
「見えぬ!!
うっとしいわぁ」
といって仮面を外し
ソフィアが掛けていた結界を払った。
「おお!
確かに小さいが趣があるな!」
とバベルが言ったか言わないかのうちに
辺りが大パニックになった。
「ま、魔王様…!」
「いつ頃戻られたので…」
「道を開けろ!
跪け!殺されるぞ!」
こいつは人間から恐れられていただけではない
魔人からもこの上なく恐れられていた。
花火と月だけが夜を照らし、
とてつもない緊張感が場を支配したとき
突如として花火とは比にならない程の光が光り輝いた。
輝く光は次第に強くなり、
その中から白い光が降り注ぐかのように舞い目の前に降りてくる。
そして、光の中から巨大な白龍が姿を現した。
長い白い鱗が光り輝き、美しい光沢を放っている。
間違いなく私が見た生物の中で一番美しい姿であった。
白龍はゆっくりと 丘に降り私たちに視線を合わせた。
恐怖など無くただ見とれていた。
白龍は美しい牙を見せながらゆっくり口を開いた
「お兄様、ソフィアさん困ります
復活なさったのなら王都へ戻って頂かないと」
…?
「イリシアス、久しぶりだな!
我は復活したぞ!」
「お兄様…復活したぞではないですよ!
ほら、国民が怯えています
早く城へ参りましょう!」
「イリシアス邪魔だ!
花火が見えぬでは無いか
折角の我の楽しい時間を邪魔するでは無いぞ」
ソフィアは…
駄目だ、結界を破ってこの状況になったんだ…
呆れている…
これは白龍の方が正しい…
周りの魔人たちがバベルを見てブルブル震えている…
「お初にお目に掛ります。
人間の国イーシャル王国王女のマリア=イーシェルです。
バベル王の復活とともに人質として連れ去られた次第でございます
どうか、ゆっくりとお話出来る場所に案内して頂けると嬉しく存じます」
イリシアスは面目なさそうな顔をして
「そ、そうですか…
本当に申し訳ないです…
城の方であなたを迎え入れて
色々お話を伺いたいのですが…」
「ふざけんなイリシアス
マリアも一緒に楽しく花火を観ていただろうが!」
私はバベルに軽蔑の目を向け
イリシアスのほうに向き
「是非お願いします」
そう答えると、まばゆい光が身体を包み込んだ
「おい、まて!」




