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第二話 勇者よ、ハーレムを目指すな

ハーレムは男が見る桃源郷です。

一人の男を巡ってドロドロネチネチした女の修羅場が糞神達にとってハラハラドキドキさせてくれます。しかし、そこから生まれるは争いという火種。誰が正妻になるか論争です。


正妻は彼女だという神もいれば、この子こそが正妻と派閥争いが日夜繰り広げられます。

最終的に主人公とヒロインが結ばれると負けたヒロインを推していた神は落胆し、IFルートの世界線を作ろうとするのです。


気軽に世界線を作んな。迷える魂を回収する手間が増えるでしょうが。

おっと口が滑ってしまいました。


ともあれハーレムは目指さないことが私にとって仕事が減って助かります。

メインヒロイン一筋という一途な想いは私、カマエルも最高に推せるというものです。

ヤリチン神々(やろう)にも見習ってほしいものですよ全く。


あ、言っとくけど私は処女です。間違えても天使は痴女と思うな。べ、別に異性に興味がないわけではないんだけど、仕事が忙し過ぎてそういう暇がないというか……ともかくハーレムは苦手です。あと寝取られはクソ嫌いです。世界に干渉して間男の睾丸を潰してやろうかな。


さて……え? 突然なんですか。付き合ってほしい? すみません。

私は異性に興味は多少ありますが、天寿が定められた迷える魂に興味がないです。


勝手にヒロインといちゃいちゃしてこい。

でも……そうだね。本当に気持ちが変わらないなら、ここの記憶を思い出すきっかけを与えておくよ。

もし思い出したら私の名前を呼んでね。まぁ記憶消すから思い出せないと思うけど。


それじゃあ、レッツ異世界チート転生!



◆◆◆◆



「疲れたああああああ」


上半身を目一杯に机に伸ばす大天使ことカマエル。いつもなら疲れた姿を見せず颯爽と帰るのだが、今日は違った。


「全エンド回収お疲れ様ッス。まさか全ての世界線の迷える魂を回収をするなんて、尊敬するッス」


傍から見ていたハニエルはカマエルの仕事っぷりに尊敬の念を感じていた。さすが神達から必殺仕事人と言われるだけある。


「マジで36人ハーレムとかふざけてる。しかも全ヒロインに推す神がいるとか、あいつらの下半身どうなってんの」


「象さんしてるんじゃないッスかね」


「してるだろうね〜」


「ヤリチン嫌いッスか?」


「嫌いだよ」


「先輩は人の恋愛見るの嫌いッスか?」


「……一途なら好き。少しずつ惹かれ合って好きになっていくあの感じ。私もしてみたい」


「純情な乙女すぎないッスか。そんなんじゃ彼氏とかできないッスよ」


「う、うっさい! 大天使が夢見て何が悪い!」


白馬の王子様が迎えに来てくれるとか、高望みしてない。私だけ見てくれて優しくしてくれる人、そんな人なら例え顔が良くなくても付き合うから、うん。


「……先輩と付き合ったら束縛ヤバいでしょうね」


だってに百年間、隣でカマエルを見てきたのだから間違いない。彼女は真面目すぎるが故に恋愛も拗れてしまっているのだ。


「ハニエルだって彼氏いないでしょ」


「あ、いるッスよ」


「え、はぁ!?」


今日一声が出た瞬間である。


「いつどこで誰とどう出会って付き合うようになったの!?」


「お、落ち着いてくださいッス。そ、そんなに頭振らさないで! 吐いちゃう吐いちゃうから!」


しかし、平穏な日常も束の間。

ピコンと二人にとって聞きたくない通知音が響く。恐る恐る音の鳴る方に視線を移すとモニター画面に『世界線作ったから回収よろ』と通知(しんたく)が下っていた。


「ふ、ふ、ふ」


「先輩、冷静に! 矛を抑えて!」


ギリギリ表面張力で爆発しなかった火山にハニエルはホッと一息つく。


「今度、彼氏にいい人紹介するよう言っておくんで、今は仕事頑張りましょうッス」


「……絶対だよ」


一難去ってまた一難。けれどまだ男を紹介して命が助かる方がマシだ。大天使の憤怒は神も凌駕する。そんなものがただの天使である自分に向けられたらと思うと気が気でないのだ。


「じゃあ回収に行ってくるからあとよろしく」


「はいッス。お土産期待してるッス」


「甘い菓子すらない世界にお土産を期待されてもね」


日本ならともかく開拓があまり進んでいない異世界で土産は博打を打つようなものだ。

もちろん当たりを引けば最高だが、そうそう上手くいかないのが変数世界の現状である。


「うん?」


ピコンとまた音が鳴り、ハニエルはモニターを覗く。すると全身から血の気を引いたように青白くなり、慌てて画面を隠した。


「どうかしたの?」


「な、なんでもないッス! 先輩は迷える魂の複製を回収しに行ってくださいッス!」


「……怪しい。まさか私に隠れて彼氏とやり取りしてるんじゃないでしょうね」


「違うッス! 違うから見ないでほしいッス!」


ハニエルは必死にモニター画面を隠そうとするが、大天使の前では無力だった。例えるならゴリラとアリの力量差。もはや彼女がそれを見て憤怒の炎に燃えるのは時間の問題だった。


「ふーん、通知(しんたく)か。まぁ今の私ならちゃちゃっと終わらせ……」


それは起爆剤だった。一瞬にして世界が焦土と化す黒き炎の顕現であった。


「『103人ヒロイン全員の世界線作ったから回収してくんろ』だって……?」


天使の輪が黒く滲み、堕天する瞬間だった。


「カマエル先輩! 堕天しないでぇえええ!」


コンマ一秒にも満たない速さで彼女に抱きついた。堕天してしまえば別の職場に異動する。

それはハニエルにとってチート転生課にとって主神にとって大きい損失であった。

それほどカマエルは優秀なのである。


「糞神ぃぃぃいいいい!! 一発ぶん殴りに行ってやる!」


「やめて! ルシファー先輩みたいに反逆者にならないでぇえ!!!」


ハニエルは必死に足枷のようにしがみつき、カマエルを踏み止めた。結果、カマエルは辛うじて堕天せずに留まり、チート転生課は事なきを得たのだった。

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