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第一話 チート転生は立派なお仕事です

チート転生はご存知ですか。

なんでも神様がひまつ……迷える魂に第二の人生という慈悲を与えるクソなシステムです。あ、最高のシステムです。

神様はチート(英雄の魂から引き剥がした力)を迷える魂に与え、異世界でも生き抜けるよう、ありがた迷惑に施してくれます。


チートを手にした迷える魂は勇者だったり、英雄だったり、魔王だったり、時にはスライムやら剣やら虫やら挙句の果てにトイレになる野郎もいます。

現代日本人の頭は大丈夫なのか?

おっと失礼。人間は十人十色と個性豊かですから奇抜な発想に至るのも至極当然なのでしょう。


さてさて。チート転生した迷える魂は大抵異世界で活躍して神々(クソニート)のいい暇つぶしになっています。人間で言うと映画をポップコーン片手に見ている感じかな。

たまにこの映画に関わりたいって言い出して世界に干渉しそうになった時は全力で阻止するのが辛いところ…………覚えてろよクソジジイ。


おっと、そろそろあなたの番です。

ここで聞いたことは忘れちゃうけど、まぁ問題ないでしょ。日本でいうスタッフやカメラマンの裏方より女優や俳優みたいな表の方があなたにとって憧れだからね。

天使が影でサポートしてるなんてことは幻滅させちゃう。だから忘れて。まぁ嫌でも忘れさせるけど。


それじゃあ、レッツ異世界チート転生!




◇◇◇◇




目を覚ますと俺は真っ白な空間にポツンと立っていた。夢なのか現実なのか分からず、額に手を当てて前の記憶を探り出す。


「俺は確か……」


寝て起きて仕事に行く途中で……トラックに轢かれた。最初は何が起こったのか分からず、熱く冷たい感触が全身を巡って強烈な眠気と共に意識が途切れたのが最後の記憶だった。


「俺は……死んだのか」


混濁した頭が少しずつ霧のように晴れていく。

するとどこからか暖かい風が吹き込んで白い雲が人の形を成して姿を顕にした。


「迷える魂よ。よくぞ辿り着いた」


一言で表すなら白い髭が足元まで伸びている老人。どこか神々しさを思わせる佇まいに不思議と疑念が消える。


「そなたは天寿を全うせず死んだ。だが悲願してはならぬ。そなたに第二の人生を用意している」


「第二の?」


「うむ。転生というものだ。異世界に魂を移転させ、新たな生を全うする。だが、それだけでは不安であろう。そなたにはチートスキルを一つ与えよう」


チートスキル? 漫画や小説で見たあの? てことは俺ってもしかして勝ち組になれるのか?


「あの、チートスキルはどんなのがあるんですか?」


「うむ。この中から選ぶがよい」


光のパネルが目の前に広がって、俺は膨大なパネルの中から一つ一つ吟味していく。


「この剣聖いいな。あ、こっちの錬金術も捨てがたい」


傍から見ると新しい玩具を選ぶ子供のようだ。

大の大人がそんなに喜んで、はしたない気もするが、彼にとっては些細なことなのだろう。


「うーん、やっぱり錬金術も欲しい」


彼は頭を抱えて考え込む。

大好きなゲームが二つ同時に発売されて、一つしか買えないというジレンマなのだろう。

そして人間という生物は実に欲深いのが有名だ。


「神様、二つ欲しいのがあるんですが」


「申してみよ」


「この剣聖と錬金術っていうスキルで、どっちも捨てがたいと言いますか、一つだけ選ぶのが難しくて」


「なるほど。本来ならダメだが、そなたは数多くの善行を積んでいる。特別に二つ選んでよいぞ」


「……けんな」


「……? 誰かの声が聞こえたような?」


「き、気にするでない。では第二の人生を楽しむがいいぞ!」


「あ、ちょっと!」


男は黒い大穴へと吸い込まれて意識が真っ黒に染まっていった。




◇◇◇◇




「ふざけんな! あのクソジジイ、チートスキル二つにしやがった!」


机の上で烈火のごとく怒り狂う大天使が一人。神に向かって奇声を上げる。そう、何を隠そう彼女が本作の主人公カマエルだ。しかし、美しい見た目とは裏腹に性格は真面目すぎる玉に瑕である。


「今日も一段と燃えてるッスね、カマエル先輩」


横で見ていた金髪のギャルに近い天使がゲラゲラと笑みを浮かべた。カマエルはぎろりと睨み、金髪天使は背中から冷や汗が止まらなくなる。


「ハニエル、あなたは全然分かってない。チート二つ付与するのがどれだけ大変なのかを」


「い、いつも通りボタンでカタカタって入力すればいいんじゃないッスかね」


「二つになると魂が対消滅する可能性があるんだよおおおおお!!」


台パンからの阿鼻叫喚。ハニエルは恐怖を通り越していっそ清々しいまでに口を開く。


「対消滅しないよう調整すれば」


「その調整が鬼畜なの! 樽でコップ一杯の水を入れるくらい難しいの!」


「よく分かんないッス」


「クレーンゲームでギリギリ落とさない状態をキープさせるってこと」


「まぁ何となく分かったッス。とりま調整が激ムズなんッスね」


カマエルは深いため息をついて、机に突っ伏する。しかし、やらねば主神に怒られるため、早く残業を終わらせて家にとっとと帰ろう。


「あれをこうしてこうやって……よし終わり!」


カタカタとおよそ人間ではない速さで打ち込んでいき、最後にキーボードのエンターを押して今日の残業終わりを告げる。いやはや、人間界でパソコンという神アイテムを作った人間はマジで神様だと思う。

パソコンなきアナログ時代で魂に■■言語を直接書き込んでいたのが馬鹿らしく思える。


「おお、魂に剣聖と錬金術のスキルが付与されていくッス!」


モニター越しに映る迷える魂に金色の文字がまとわりつく。やがて金色文字は魂に溶け込んで一つまた一つと人の形を作っていく。

これから彼は異世界で何を成すのか、まぁ大方ハーレム無双エンドだろうけど、私はそんなのに興味がない。勝手に子供作って異世界ライフしてくださいませ。


「私は終わったからもう帰るね」


「え、ま、待ってくださいッス! 私の迷える魂を救ってくださいッス!」


「え、無理。これ以上寝る時間減らされたら堕天しちゃうんだけど」


「お願いッス! 後生の頼みッス! 今度焼肉奢るからああああああ!!」


ハニエルは土下座してカマエルを引き止める。

可愛い後輩の頼みを断って堕天していく姿を想像すると目も当てられない。


「……はぁ。あなたの迷える魂を見せて」


「ありがとう先輩ぃぃいいい!」


足に抱きつくハニエルを蹴飛ばし、彼女の机に座って詳細を見る。


「即死能力に全属性魔法の適性とステータス限界突破……魔王になりたいのかな?」


とりあえず即死能力は条件発動で、魔法の適性はセンス次第にして、ステータスは鍛錬で伸びる形式にしてっと。


「はい、終わり。これなら異世界で暴れることないでしょ」


ひと仕事が終わって一杯飲みたくなってきた。

まぁ残業頑張ったデーと評して今日は飲みにでも行きますか。


「ハニエル、調整が終わったから見て」


「先輩、好きッス!」


「抱きつかないで。確認して早く飲みに行くよ」


「はいッス!」


ハニエルはウキウキにキーボードを打ち込む。が、突然ピタリと止まって顔から血の気が引いていく。


「せ、先輩。ステータス全部調整したんッスか」


「うん? そうだけど何かダメだった?」


「……先輩。実はこの迷える魂の転移先が魔王城になってまして」


「ああ、魔王城に転移して魔王に認められるってパターンね。よくある事だから気にしない気にしない」


「いや、そのなんと言いますか。主神から魔王VS魔王が見たいって通知(しんたく)がきまして、それで対等に戦えるよう調整してたんですけど……」


「つまり?」


「調整ミスです先輩」


「……」


辺りは静まり返りハニエルは汗が止まらなくなる。静寂に少しずつカマエルの背後からゴゴゴゴと怒りの化身が露わになって、ハニエルは小さく悲鳴を上げた。


「早く言えぇえええ!」


「すみませんすみません! 寿司も奢りますから蹴らないでくださぁい!」


「そんな時間ない! いいから修正して飲みに行くぞこらぁあああ!」


「はひぃぃいいい!」


彼女達、天使が切磋琢磨にサポートしているのを迷える魂は知らない。いや、知っていてもきっと彼女は「残業がなくしてくれないでしょボケ」と怒り狂うことだろう。

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