表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

銭湯にて、先輩と

ジャンル:現実世界恋愛

 下町の古い銭湯。

 開業してから50年以上が経つ。


 それでもいまだに現役で営業を続けているというのだからスゴイ。


 長年、番頭を務めていたトメばあさんが引退し、近所の若者が営業を引き継いだ。

 まだまだ利用客がいることと、文化としての銭湯を残したいという理由かららしい。


 立派なことだとは思うが、不安はないのかと聞いたら「先のことは後で悩むことにしている」との返答。

 若さゆえの冒険心なのだろう。俺に同じことができるとは思えない。


 その銭湯に、先輩と二人でやって来た。


 銭湯の入口には昔ながらの下駄箱。

 木の札で鍵をかけるタイプのものが置かれている。


 番台の隣には石鹸や携帯用のシャンプーなどが並んだラック。

 床は年季が入っているが、ピカピカに磨かれている。

 前の経営者が大切に扱ってきた証拠だろう。


 準備を済ませた俺たちは浴室へと向かう。


 今日は女湯に二人で入る。

 もちろん、他に人はいない。

 二人っきりだ。


 浴室の入り口には黄色いタライが詰まれている。カランも鏡もピカピカに磨かれており、タイルの隙間も真っ白。

 毎日のように掃除しているからこそ、清潔感が保たれているのだ。手を抜いて掃除をしていたら、こんな風にきれいな環境を保てない。

 銭湯の経営は大変だと思う。


「すごいね、とってもきれい」


 先輩が浴室の様子を見て目を輝かせる。


 壁に描かれた絵はペンキが剥がれて傷んでいるが、それ以外はまったくもって問題がない状態。

 普段の利用者も気持ちよく入浴していることだろう。


「先輩もきれいですよ」


 恥ずかしさを感じながらも、なんとか口にする。


 長くてつややかな黒髪は見る者を虜にする。

 蠱惑的な姿態を眺めたら、劣情をもよおすこと間違いなし。

 実際、俺は現在進行形で興奮している。

 もちろん性的な意味で。


 二人っきりなんて、最高すぎるだろ。


「じゃぁ、さっそくはじめよっか」


 先輩は俺を見て悪戯っぽく笑いながらウィンクする。

 ああもぅ……本当に可愛いなぁ。


 俺はずっと先輩に憧れていた。


 先輩とは高校時代からの付き合いで、俺たちは美術部に所属していた。

 放課後は美術室で思い思いの絵をかきながら将来の夢を語り合った。先輩の話は面白かったし、俺に話してくれることが嬉しかった。

 他にも部員がいたので、二人っきりではないのだが……それでもあの時間は特別だった。


 先輩が卒業後も俺の思いは消えず強くなる一方。

 一大決心して同じ大学に進学し、サークルも同じのに入った。


 仲間からはストーカーかって引かれてたけど、先輩とは良好な関係を築けている。

 相手はいまだに俺を恋人としては見てくれてないんだけどね。


 それでも一緒にいたいという願いが叶って二人っきりでここへ来た。

 誰にも邪魔されない先輩との時間。

 もう他に何もいらない。


 それにしても……可愛い。


 胸も、ヒップも、ウェストも。

 なにからなにまで魅力的なんだよなぁ。


 作業着の上からでもスタイルの良さが分かるよ。


「うっす。貴重なお仕事、ありがたいです!」


 俺は脚立を壁の前に置く。


 すでに養生は済ませてある。

 いつでも絵の修繕に取り掛かれる状態だ。


「じゃぁ、始めるね。

 明日は男湯もだから、今日中に終わらせるよ!」

「はい!」


 大学を卒業して銭湯絵師となった先輩。

 全国に残された数少ない銭湯の絵を修復して回っている。


 夢中で働いている彼女を見ていると、どうしても本音が言えない。

 俺は邪魔にならないよう気持ちを抑えて手伝いを続けている。


 この思いを伝えられるのは、まだ先のことになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お、これは割と素直に読めました。笑 (警戒しながら読んでる猫) 性欲と恋心。 先に爆発するのはどっちかな?←
[良い点] 強烈な違和感を覚えつつ読み進め、 オチでホッとしたようなやられたというような 変な声で笑いました(笑)
[良い点] 伏線回収とても楽しいです。 何回も読んでしまいます(笑)。 [一言] 米のこころの動き 〉その銭湯に、先輩と二人でやって来た。 さてはお風呂掃除に来たなこの2人。 (・ω・)ふふふ、も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ