よく晴れた昼下がり、路上でのこと
ジャンル:純文学
狭いトラックの荷台。
二人の男が向かい合って座席に腰を下ろしている。
一人はボロボロのシャツに穴の開いたズボン。
ぼさぼさの髪に整っていない無精ひげ。
手錠をつけられ、両脇には屈強な兵士。
ギラギラと憎しみのこもった目で向かいの男を睨みつけていた。
もう一人の男は黒い軍服を着た中年の男性。
左上腕には赤い腕章を巻き、短剣を下げ、ケピ帽を深くかぶる。
彼は落ち着いた様子で睨みつけてくる男を見据えていた。
動じた様子は全くみられない。
「くそっ……これで俺も終わりか。
あともう少し、暴れたかった」
「……ふんっ」
男が口惜し気に言うと、軍人は無言で鼻をならす。
先ほどから男は貧乏ゆすりをしながら、手で顔を覆ったり、指と指をこすり合わせたりと落ち着きがない。
これからたどる自分の運命を予見しているのだろう。
数時間も経たぬうちに処刑されるのだ。
軍人は足を組んだまま泰然自若とした様子で、目の前の男をじっくりと観察する。
男の見た目から、粗野で横柄な人柄が見て取れる。
ろくな人生を歩んでこなかったはずだ。
野犬のようにあちこちを荒らしまわり、何人もの人間を手にかけたこの男は、もはや狩られる側に回ったのだ。
彼が腕に身に着けている手錠は、犬の首輪に等しい。
いや……首輪の方がまだマシか。
処分することを前提に犬を飼う習慣など聞いたことがない。
「……どうせ死刑になるんだ。
あいつらを殺した時の話をしてやるよ。
たしかええっと……ルートヴィヒだったか。
あいつを殺した時はガキのように泣き叫んでいたよ。
助けてくれ、お母さーんってな」
突然、男が口を自分の犯行について語り始めた。
なにか話していないと不安なのだろう。
「ああ、それとアルミンとか言う奴。
あいつの最後も情けなかったぞ。
クソと小便を垂らしながら、
許してくれって懇願するんだよ。
ダメだって言ってやった時の絶望した顔はなかったぜ」
まるで道化を演じているかのように、男は表情豊かに語って聞かせる。
その様子にぞっとしないものを覚えながら、軍人は彼の顔を見つめていた。
「それと……フリッツ。
森の中で追いかけまわしてやったけどよ……。
足を引きずりながら最後まであきらめなかった。
俺が追い付いて押し倒してやっても、
なんとか助かろうと足掻き続けていたよ。
まぁ……きっちり殺してやったわけだが」
ニヤニヤと自分の所業について語る男。
いったい彼の話はいつまで続くのか。
この退屈な仕事を早く終わらせたい。
軍人は腕時計で時刻を確認する。
そろそろ到着するはずだ。
ちらりと男の方へ視線を向けると、びくりと身体を震わせる。
彼の命ももってあと数分。
少ししてトラックが停車した。
「着いたぞ、降りろ」
兵士たちがやって来て男を荷台から降ろす。
軍人はその後でゆっくりと下車し、あたりを見渡した。
何もないあぜ道。
両脇には麦畑が広がっている。
照り付ける太陽がまぶしかった。
兵士たちは一列に並び、突撃銃を構える。
少し離れた場所に立たされたその男は、観念したのか逃げようするそぶりすら見せない。
「なにか言い残すことは?」
軍人が尋ねる。
「貴様ら全員、俺の仲間が地獄へ送る。
俺の顔と名前を忘れるな!
貴様らが殺したのは――」
ズダダダダダ!
一斉に銃口が火を噴いた。
たちまちハチの巣にされた男は、そのまま地面に倒れて絶命する。
遺体からは真っ赤な血潮が流れ出し、周囲に血だまりをつくった。
「諸君、あの男の仲間がこの付近に潜伏している。
怪しそうな者を手当たり次第に捕まえて処刑せよ。
何人殺しても構わない」
軍人がそう言うと、兵士たちは一斉に右手をまっすぐに伸ばして高々と掲げ、叫ぶ。
「「「ハイルヒットラー!」」」
よく晴れた昼下がり。
路上でのことだった。