以前にも、言ったよね?
ジャンル:ヒューマンドラマ
俺は洋子を正座させる。
「言ったよね、男遊びなんてやめろって」
「……はい」
しょぼんとうなだれる洋子だが、反省しているとは思えない。
彼女は仕事終わりに歓楽街へ出向いて、飲み屋で男をひっかけてはワンナイトを楽しむ悪癖がある。
俺はなんとか矯正しようと頑張っているが、彼女の悪癖はなかなか改善されない。
「なんど同じこと言えば分かるの?
俺にだって我慢の限界があるんだよ。
そんなに俺のこと嫌いなの?
嫌がらせのつもり?」
「違います。蓮人君のことが大好きです」
「だったらさぁ……俺の言うこと聞いてよ。
なんど同じこと言わせるわけ?」
「……ごめんなさい」
これだよ。
洋子はいつもごめんなさいって謝る。
それなのに彼女の癖は治らない。
洋子が過ちを犯すたびに、俺はこうして説教をするのだ。
もちろん、好きで説教をしているわけではない。
俺の立場になれば、彼女だって俺の気持ちが分かるはずだ。
彼女の生い立ちは確かに恵まれていなかった。
幼いころに父親が蒸発し、母親からもネグレクトを受けて、施設に預けられることになった。
寂しさを紛らわせるために男に抱かれ、足りないものを埋め合わせようとしている。
気持ちは分からなくもない。
けど、大切な人だからこそ、見過ごすことはできないのだ。
「この際だからハッキリ言わせてもらうよ。
洋子のしてることは人として間違ってる。
頭おかしい」
「そこまで言う⁉」
「うん、言う。子供がかわいそうだと思わないの?」
「ぐっ……そう言われると……ううん」
頭を抱えてうなだれる洋子。
これも反省しているポーズだと俺は分かっている。
だから素直に謝罪を受け入れることはできない。
たとえ彼女が――
「別にダメとは言わないよ。
でも、会ったその日にエッチするのは違くない?」
「本当にごめんね、蓮人君。
今度の誕生日にはスイッチ買ってあげるから、それで勘弁して」
両手を合わせて片目をつぶる洋子。
そんなもので俺がつられるはず……。
「分かったよ、でももう――」
「蓮人君大好きぃ!」
俺のことを遮二無二抱きしめる洋子。
こんな人が母親だと苦労するなぁ。