さっちゃん、大好き
「私さぁ、これ好きなんだよねぇ」
さっちゃんが言う。
「いいよねぇー。私もマジ気に入ってる」
「ちょっと分けてあげようか?」
「え? いいの」
さっちゃんはとてもやさしい。
いつも皆から慕われている。
「いいよいいよ、へるもんじゃないし」
「いや、減るでしょw」
さっちゃんはユーモアのセンスもある。
さすがだ。
「でさぁ、今度の日曜日だけど……どこ行く?」
「私、映画見に行きたい! この前、始まった新作!」
「いいねぇ、行こうか!」
「わーい!」
さっちゃんは友達を大切にする。
とっても優しくて大好きだ。
さっちゃんとは幼馴染だ。
幼稚園から高校まで、ずっと一緒。
どんな時も笑顔で、誰にでも優しく、可愛い物が大好き。
そんな彼女を見ていると、なんだか胸の奥がムズムズする。
「あー! 鼻の頭にクリームが付いてるぞ!」
「え? どこどこ?」
「ほらぁ、ここぉ」
「あっ、今つけたんでしょぉ!」
さっちゃんはハンドクリームをちょっとだけ人差し指につけて、ちょんと鼻の頭をつつく。
悪戯好きなことでも有名だった。
幼いころはよく追いかけまわされた。
最初は嫌で逃げ回っていたけど、だんだん楽しくなって、彼女を好きになっていた。
家が近所だったこともあって、二人でよく遊びに行った。
秘密基地を作ったりもしたなぁ。
夕方まで泥だらけになりながら遊んで、揃ってよく怒られたっけ。
成長するにつれ、さっちゃんはだんだん女の子らしくなっていった。
外で遊ぶこともなくなり、女子とばかり遊ぶようになる。
「なんでそんなに意地悪するの⁉」
「なみっちのことが大好きだからだよー!」
「うわぁ! いきなり抱き着かないで!」
「好きな癖にぃ」
甘い声を出しながらお友達に抱き着くさっちゃん。
確か小学5年生になったくらいの頃か……彼女との接点が無くなったのは。
「そういえばさぁ……」
「うん?」
「あいつ、私たちの話、聞いてない?」
「うわぁ、多分また聞いてるよ」
「いこいこ、きもい」
お友達と一緒に席を立つさっちゃん。
彼女は教室を出て行く前に、振り返って俺を見る。
ニコリとほほ笑むと、彼女は引きつった表情を浮かべた。