彼女の気持ちが、痛いほど分かる
「俺がいない間よく我慢したね、いい子だ」
そう言いながら頭を撫でてやる。
真っ赤に顔を染めた美香は俺に抱き着いて、哀願するように潤んだ瞳で俺を見上げる。
赤い首輪を身に着けた彼女をそっと抱きしめて耳元でささやいた。
「愛しているよ」
この光景を誰かに見られたら酷く嫌悪されるかもしれないが……まぁ、別にいいじゃないか。
ミカと出会ったのは三年前。
外回りの最中にゲリラ豪雨に見舞われ、たまたま同じ場所で雨宿りしたのが交際の切っ掛けだった。
彼女と俺はどうやら気が合うようで、同じ空間で過ごすことで親密な関係になった。
雨が止んだ後、我慢できなくなった俺は仕事を放り出して彼女を自宅へと連れ込む。
共に夜を過ごした俺たちは自分たちで思う以上に親密な関係となり、暇を見つけては布団の上で戯れる。
「結婚しよう」
出会ってから三か月くらいの頃に、ポロっと言ってしまった。
俺は一体何を言っているんだと後悔したが、向こうも受け入れてくれたようだ。
それからは早かった。
思い切って新居を購入。
ミカは気に入ってくれたようで、夜な夜な甘い声を出しては俺にすり寄って来る。
なにからなにまで順調だったが、唐突にミカがとんでもない行動をしだして、雲行きが怪しくなる。
俺に尻を向けて迫ってくるのだ。
子供を作ろうと誘っているのだが……どうしても応えられなかった。
愛すべき妻なのだから無下にはできない。
俺は誠心誠意、彼女に尽くした。
しかし……どうしても役目を果たせなかった。
嫌な予感がした。
このままでは彼女に見捨てられてしまうのではないか。
そんな恐怖心が俺を暴走させる。
「なぁ、ミカ。そんな目で俺を見るなよ」
潤んだ瞳で俺を見上げるミカ。
俺は彼女を拘束し、外へ出られないようにした。
こうすればずっと俺の傍にいてくれる。
誰にものにもならない。
俺だけのミカ。
俺だけの……。
「あのさぁ、ガチのケモナーとか引くわ」
久しぶりに俺を訪ねて来た妹が言う。
「うるせぇな。仕方ねぇだろ。
生まれてこの方、ケモノにしか愛せないんだ」
「はぁ……なんでこんな奴が兄貴なんだろ」
彼女はため息をつく。
「にゃーん」
俺の足に妻であるミカがすり寄って来る。
三毛猫である彼女は俺だけを愛してくれるパートナー。
ずっとずっと、一緒にいたい。
「でも、なんで私の名前なんか猫につけたの?」
「その理由はお前が良く分かってるんじゃないか?」
「……え?」
硬直した美香に、俺は赤い首輪をつける。
「俺がいない間よく我慢したね、いい子だ」
そう言いながら頭を撫でてやる。
真っ赤に顔を染めた美香は俺に抱き着いて、哀願するように潤んだ瞳で俺を見上げる。
赤い首輪を身に着けた彼女をそっと抱きしめて耳元でささやいた。
「愛しているよ」
「私も……大好き……お兄ちゃん」
彼女はどういうわけか、俺にガチ恋している。
小学生のころからずっと。
しかし、俺はガチのケモナー。
彼女の気持ちには応えられそうにない。
これは彼女に対するせめてもの慰め。
決して結ばれない相手に恋をした妹に対して、俺ができる最大限の配慮。
俺には彼女の気持ちが痛いほど分かる。
「にゃーん」
嫉妬するかのようにミカが鳴いた。