噂好きの、仲良し二人組
ジャンル:ヒューマンドラマ
教室で昼食を食べ終えた生徒たちがそれぞれのグループに固まって話をしている。
ハルナはミサと二人で昼食を取り、食後のお喋りを楽しんでいた。
「ねぇねぇ、聞いた?」
「うん、聞いたよ。
隣のクラスのユウスケ君。
レイナと付き合ってるんでしょ?」
「びっくりだよねー!
私さぁ、初めて聞いた時、ちょっと引いちゃった」
「なんで?」
「レイナって他に付き合ってる人がいるらしいよ」
「うそ⁉」
机を挟んで向か合い、ひそひそと噂話をするミサ。
ハルナはミサと一緒に行動することが多い。
教室を移動するときも一緒。
体育の授業でペアを組むのも一緒。
仲が良いと言うよりは……切っては切り離せない関係と言うべきか。
多感な少女たちにとって、誰と共に行動するのかは重要なファクターだ。グループを作るにしても、ペアで行動するにしても、相手のスペックやキャラ性を深く考慮し、不確定要素も加味しなければならない。
進学やクラス替えで環境が大きく変わる時、その変化に素早く適応しなければ、直ちに孤立することとなる。
孤立はすなわち絶望。
絶望を味わいたくないのなら、一緒にいてくれる誰かを群れの中から見つけ出さなければならない。
ハルナにとってその相手がミサだった。
『噂』というファクターによって、ハルナはミサと深く結びついている。
この二人の関係を成立させるために噂話が必要不可欠。
「それとさぁ……C組の、アイツ。
パパ活してるらしーよ」
「うわっ、ひくわー」
「この前、駅前でおっさんと待ち合わせしてたって」
「ないわー」
ミサが新たな話題を提供した。
C組のアイツが誰なのか、ハルナは名前を出さなくとも分かっている。
それくらい仔細にミサの持つ情報を把握しているのだ。
声を潜めて話しているのは、盗み聞きをされないように……というわけではない。ハルナがミサと強い絆で結びついていると、周囲にアピールする狙いもある。
『噂』を好むミサは、敵を作りやすい。
二人の関係を瓦解させようとたくらむ者もいる。
教室で小声でひそひそと話している姿を見せれば、外部から干渉されても普段通りの関係が続いていると、周囲に知らしめることができる。
これも一種の生存戦略と言えよう。
「それにしてもすごいよね、ミサは。
なんでも知ってるんだもん」
「へへへ、私の情報網はすごいんだよ」
ミサが照れくさそうに言う。
二人の関係は席が近いからというだけの理由で始まった。
共に友達が少なく人付き合いも苦手。でも周囲の人間関係には人一倍敏感。
そんな共通点があり、短い期間で仲良くなった。
ハルナは最初、ミサのする噂話に戸惑いを覚えた。けれども彼女と一緒にいたいがために死に物狂いで適応した。
今では難なく話題についていけるようになった。
ハルナの頭の中には各学年の生徒のほぼ全てのデータがファイルされており、ミサがどこの誰について話しても対応できる。
常にアンテナを高くして情報を集め、休み時間にミサが提供する新たな話題に備えているのだ。
この関係を存続させるのも大変である。
何故、そこまでしてこの関係に固執するのか。
実はかつて中学生の頃に、ハルナはいじめによって孤立した過去がある。
休み時間の間、教室でずっと一人で過ごし、孤独感からくる絶望を嫌というほど味あわされた。
だから一緒にいてくれるミサの存在は何よりも大きい。
「そろそろ行こうか」
「次、選択科目だもんね」
それぞれ自分の机から教科書と筆記用具を取り出し揃って教室を出て行くと、入れ替わりに一人の男子生徒が教室へ入って行った。
「今の、ユウスケくんかな?」
「じゃない?」
「うちのクラスに何か用かな?」
実はユウスケ君に先日、告白されて付き合うことになった。
レイナとは別れたと言っていた。
ユウスケ君は多分、ハルナに会いに来たのだろう。
しかし、そのことをミサに話すわけにはいかない。
何故なら彼女もユウスケ君のことが好きだからだ。
だからこう答えるのである。
「ごめんね、ミサ。ハルナには分からないよ」
このお話のオチが分からない人のためのヒント:この物語は一人称? 三人称?