新作ロボット、お目見えする
「ようこそお集まりくださいました!
これから私達が開発したロボットを披露させていただきたいと思います!」
幕が上がると赤いドレスのブロンドの女性が姿を現した。
彼女はきはきとした声で聴衆に語り掛ける。
「それではデイビッド。よろしくお願いするわ」
「……はい」
デイビッドと呼ばれた男は、舞台の真ん中へ歩いて行く。
緊張しているのかその足取りはたどたどしい。
「おいおい、なんだあの歩き方!
まるでロボットじゃないか!」
「デイビッド! しっかりしろ!
ママが心配してるぞ!」
「HAHAHA! あんな状態でよく出て来られたな!」
口々に罵る聴衆たち。
スーツを着た彼らは、デイビッドを侮辱しつつ嘲笑の笑みを浮かべる。
「今回、皆様にお見せしたいのは……」
「おおい! 声が聞こえないぞ!」
「うちの掃除用のロボットの方がよくしゃべるぞ」
「こんな状態で新商品のプレゼンができるのか?」
デイビッドの声は小さく、ヤジによってかき消されてしまう。
「ああ、ダメダメ。ちゃんともっと大きな声を出して!」
「今回‼‼ 皆様に‼‼ お見せ‼‼ したいのは‼‼」
ブロンドの女性がそう言うと、今度は極端に大きな声でしゃべりだすデイビッド。
これはダメだと女性はうんざりした表情を浮かべる。
「ねぇ、デイビッド。
散々練習したのにこれなの?
どうしてちゃんと話せないの?
アナタは本当に間抜けやろうね」
「……はい」
口汚く罵る女性に表情を変えずに返事をするデイビッド。
聴衆のヤジはますます大きくなる。
「ダメだこれはー!」
「ひっこめ! ひっこめ!」
「ばーか! ばーか!」
「黙りなさい! このクソ××ども!」
女性は口汚く聴衆を罵り、中指を立てる。
しかし、聴衆は一向に黙らずヤジを飛ばす。
幼稚で陳腐で語彙力のないそのヤジは、あらかじめ決められた定型文を繰り返しているかのよう。
「よーし、その辺でいいだろう」
どこからか男の声が聞こえてくる。
すると、聴衆は静かになった。
まるで時間が止まったかのように、ピクリとも動かなくなるスーツ姿の男たち。
「予行練習はこのくらいでいいだろう。
イメージはつかめたか?」
「ああ、ぼちぼちだよ、マイク」
舞台に現れたマイクと呼ばれた男。
彼は観客席に座る動かなくなった聴衆たちに目を向ける。
「いくら練習だからって、
オーディエンスまで用意する必要はなかったんじゃないか?
準備するのにえらく時間がかかったぞ」
「どうしてもリアリティを出したかったんだ。
これくらいしないと本番らしさがない」
「そうかい」
マイクは肩をすくめる。
二人は高校の同級生。
一人は趣味でロボットの開発を行っていた。
もう一人は個人でAIの研究を進めていた。
高校で出会った二人はすっかり意気投合し、人工知能を搭載した自立型ロボットの開発をスタート。
長年の成果が実り最高傑作が完成したので、学校で発表しようと考えた。
無論、その成果物は聴衆役のロボットたちではない。
あれには人工知能は搭載されておらず、それどころか自立して歩くこともままならない。
二人が作り上げた最高傑作は舞台に立っている一台だけだ。
「でもおかげでイメージがつかめたよ。
明日は大成功間違いなしだ。
絶対に学校の連中の鼻をあかしてやる」
「あまり熱を入れすぎるなよ。
まぁ……コイツを見ればみんな態度を変えるだろ。
もう俺たちのことをナードだのギークだの言う奴はいなくなる」
「この子がロボットだなんて誰も気づかないだろうな」
ブロンドの女性はロボットの頭に手をかけて首を取り外すと、首だけになったデイビッドはパチパチと瞬きをしながら言った。
「はい、ママ。練習通り、明日はうまくやるよ」