先生、やめてください
ジャンル:コメディ
とある開業医が営む小さな町の診療所。
毎日のように沢山の患者が訪れる。
ネットの評判はすこぶるよく、どのレビューサイトでも平均評価値が☆4を切ることはない。
あまりに評判が良いためにわざわざ遠方から足を運ぶものもいる。
果たしていったいどんな医師が診察をしているのか。
「山田ぁ、今日も肌つやがいいねぇ。
昨日はお楽しみだった?」
ニヤニヤしながら医師である松山が言う。
「先生、そういうのやめて下さいって言ってますよね。
セクシャルな話題は謹んでください」
「それにしても胸が大きいよなぁ、山田ぁ。
おしりもしまっててカワイイ」
「だからやめてくださいって」
嫌がる看護師の山田。
尻を後ろから撫でまわす松山。
顔がいっそうにやける。
山田はいつものことなので抵抗せず、諦めている。
本当なら手を払いのけてやりたいところだが……ここはそれなりに給料もよく、勤務時間も融通が利く。
子育てで忙しい山田にとっては非常に働きやすい職場なのだ。
松山のセクハラさえなければ……。
「そんなことするから、新人の子がすぐ辞めちゃうんですよ。
採用するときも顔で選んでますよね?」
「そんなことないけど?」
「とにかく、セクハラはやめてください。
これ犯罪ですからね?」
「大げさだなぁ、減るもんじゃないし」
減るとか減らないとか、そういう問題ではない。
しかし、これ以上何も言うまいと決めていた山田は口を紡ぐ。
「木原さーん! お入り下さーい!」
診察が始まり、最初の患者がやってきた。
「へへへ……今日もきれいですね」
ニヤニヤと不潔な笑みを浮かべながら、ジロジロと舐めるように視線を滑らせる。
大きな胸、ムチムチの太もも。
妖艶な雰囲気を醸し出す長い髪。
ウットリするような美女に見とれてしまう。
「それではお腹を出してもらっていいですか?」
「はい」
「…………」
「んんっ……!」
聴診器をぴとり、ぴとり。
冷たい感触に刺激を受けたのか、患者は身を震わせる。
「はい、ありがとうございました。
最近はよく眠れていますか?
変わったことは?」
「いえ、特には」
「そうですか、お薬いつもの出しておきますね」
「あっ……ありがとうございます」
患者は診察室を出て行く。
待合室は患者でいっぱいだ。
木原は適当に隅の方に座って、会計で呼ばれるのを待つ。
「木原さーん!」
「はーい」
受付に向かう木原。
会計を済ませていると、看護師の山田が顔を出した。
「うっす、木原さん調子よさそうですね」
「そう言う山田っちこそ、めっちゃ鍛えてるよね。
また筋肉が増えたんじゃないの?
特に胸のあたりが」
「ええ、自宅にいる時は常に筋トレしてますからね。
子供の相手をしながら腕立て腹筋スクワット。
毎日やってますよ!」
白い歯を見せながらにっこりと笑う山田。
彼のファンである患者も多い。
「それにしても松山女医は今日も綺麗だったなぁ。
あんな人と結婚出来たら幸せだろうなぁ。
あーあー、俺に惚れてくれねぇかなぁ」
ニヤニヤと笑いながら言う木原。
中年の独身男性である彼を松山が相手にすることはないだろう。