出会いは突然に
「はぁ···」
今日も今日とてタメ息が止まらない
「はぁ···」
辛い仕事を終えなんとか終電には間に合ったもののもう深夜の12時を過ぎている
「帰ってもゲームも出来やしない···」
学生時代から毎日のようにやってきた趣味のゲームもいつの間にかやらなくなって···いや、やれる時間さえなくなっていた
「はぁ···辛いなぁ」
足を止め、夜空を見上げる彼の名は新田 悟
絶賛ブラック企業に勤める29歳のサラリーマンだ
毎日上司に叱られ終電近くまで残業をさせられている
もちろん残業代なんて出やしない
もはや会社の奴隷といっても過言ではなかった
第三者から見ればそれなら行動を起こせばいいのでは?
と、思うかもしれないが
仕事の疲れで疲弊しきっている彼には転職や退職といった現状を変えようとする気力さへも沸いてこないのだ
「はぁ···」
再びタメ息をつくとトボトボと家路へと向かう
すると
「何だこれ?」
目の前の地面に何か落ちている
暗くてよく見えないが目を細目ながらゆっくりとしゃがみこみ手を伸ばすと目的のもの掴みあげ立ち上がる
「これ···本か?」
暗くてよくわからないが本であることに間違いなさそうだ
「にしちゃぁキレイそうな本だなぁ、新品か?」
手触りもよくしっかりとした作りの本だということがわかる
「まぁ交番は遠いからなぁ···とりあえず持ってかえるか」
もしかしたら値打ち物だったりして、などと呟きながらいつもよりほんの少し速い速度で家路へと向かった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまぁっと」
誰かいるわけでもないのに不意にその言葉が出てしまう
部屋に戻ってくると鞄と本をベッドに放り投げスーツの上着をハンガーにかけると他の衣服は脱ぎ散らかしてすぐに熱いシャワーを浴びる
「ふぅー」
シャワーを終え衣服を洗濯機にかけると部屋のベットへと腰をおろす
「さてと···お、これかー」
先ほど鞄と一緒に放り投げた例の本を手にとった
「へぇー、さっきはわからなかったけど随分としっかりとした本だなぁ、でも何語だこれ?」
A5ほどの大きさのその紺色の本には金の文字でタイトルがかかれているが悟にとってはそれが何語かまではわからなかった
「英語なわけないしフランス語?それともラテン語とかかな?」
そんなことを考えてても埒が明かないので早速表紙をめくり1ページ目を見る
するとそこには
「やっぱ何語かわかんねぇー」
ずらりと見知らぬ文字が並んでいた
悟はガッカリしながら次のページをめくる
「ん?これは魔方陣?」
次のページに書いてあったのは漫画やアニメなどでみたことがある魔方陣が赤いインクで書かれていた
「もしかしてこれ魔道書の類いなのか?」
そういって何気なく魔方陣に手を触れたその時だった
「うわっ!」
目映い光が本から放たれ部屋を包み込む
悟は慌てて本を床に落とすと両手で顔を隠した
しばらくするととその光が収まる
恐る恐る顔を上げ目を開けるとそこには
「あらあら、そんなに乱暴に扱っては本が傷んでしまいますわ」
「え?···あ···ええっ!?」
ページを開いたまま床に落とされた本の魔方陣の上には黒と赤のドレスのような服を着た黒髪ぱっつんロングの少女が立っていた
「き、きみは?」
「あら、人間様。まずはご自分から名乗るのが礼儀じゃありませんこと?」
「え?あ、ああ、そうだね」
今の現状に色々と混乱している悟だが、相手の少女から促されるまま自己紹介を始める
「俺は新田 悟。29歳のしゃち···いえ、サラリーマンです。はい」
「ご丁寧にどうも。私は···そうですね、サクヤと申します。見てわかる通りこの魔道書に宿った悪魔でございます」
「あ、悪魔···」
「ええ。ほら、この美しい翼が目に見えませんか?」
そういって背を向けたサクヤの背中からは漫画などでよく見たことがある黒いコウモリのような翼が生えていた
「ほ、ホントに悪魔なんですね···」
「信じていただけましたか?」
「あ、ああ、はい」
「さて、私の魔道書を手にしていただいた幸運な人間様···いえ、ご主人様?主様?それとも旦那様?」
「え?じゃ、じゃあ···旦那様、で」
「畏まりました、旦那様」
目を反らして回答する悟に笑顔で答える悪魔美少女サクヤ
「では改めまして···」
こほん、と一息つくと両手を胸の前に広げサクヤはこう答えた
「さぁ、旦那様。あなたの願いを叶えますわ」