夫婦でしょう?
「あの時、すごく驚いた事を覚えているわ。レイはまだ一桁くらいの年齢だったのに。私より、よっぽど賢かったわ」
「そうか。それに、きっと可愛らしい子供だったのだろうな」
クライヴの言葉に、フランチェスカは静かな笑みを浮かべる。優しいその声音は、本当にレイチェルを愛しているのだなと感じられた。
もっとも、先程も思ったように、本人がこの場にいなければ意味がないけれど。
「でもあの子はね、強そうに見えて脆いところもあるわ。甘え下手というか、一人で抱え込んでしまうから。家出もたぶん、そういうことじゃないかしら。きっと心の中がいっぱいいっぱいになってしまったのね」
「それは、俺に不満があってということか?」
振り返りながら言たクライヴは、珍しく不安げな顔をしている。そんな顔を見たのは、侯爵位を継いだばかりの頃以来だろうか。
そんな顔をさせるのが、大好きなレイチェルだと思うと、フランチェスカは少し嬉しくなる。
「それは本人に聞いてちょうだい。夫婦でしょう?」
フランチェスカがそう言うと、クライヴは一瞬虚を突かれたような表情を浮かべ、すぐに小さな笑みを浮かべた。
そうだな、と呟いたクライヴに笑って、フランチェスカは立ち上がると、来た時と同じように去っていったのである。
ちゃんと仲直りしなさいよ、と釘を指すのも忘れずに。
教会から手紙の返事が来たのは、それからほどなくしての事だった。
それによると、西の森の鳥籠に住まうヴァンパイアが、お捜しの者を知っているだろう。教会の者が案内をするから、アッシュベリーの教会でお待ちしている、とのことだった。
ヴァンパイアの名は、レイヴァノイエ。この数年で眷族を増やしたのは彼だけらしい。そういった記録に関して、教会は事細かに記している。
伯爵夫人には場所を教えなかったのに、正式な面会であれば場所も名前も教えてくれ、しかも案内つきだとは。至れり尽くせりだな、とクライヴは苦笑したものだ。
記憶が曖昧になるといっても、ヴァンパイア本人が望めば、残すことは可能なのに、と。
これまで前例がなく、ヴァンパイアたちも必要以上に人間とは関わろうとしないと分かっているから、教会は許しているのかもしれないが。
何のために面会に行こうとしていると思っているのか、と考えなくもない。
だが、今回ばかりは渡りに船。自分で探す労力が省けるというものだ。後は自分次第だな、と自分に言い聞かせる。
そうしてクライヴは後をジャックに任せると、手早く支度をすませて教会へと向かったのである。




