私はここにいる
再び彼女に会ったのは、宮殿での夜会。あの、結婚を持ちかけた夜だ。
すっと背筋を伸ばして、ふわりと微笑んで。美しかった。
「……あの日、俺はレイをすぐに見つけた。リボンとレースで飾られた青いドレスは、彼女によく似合っていたな。といっても俺の関心は、ヴァンパイアであるかそうでないか、という事だったが」
「なによそれ。ロマンスの欠片もないじゃない。あなたにそんな期待は無意味でしょうけど、もっと他にあったでしょう。レイもよく頷いたものだわ。あの子はモテるんだから。感謝しなさいよ」
呆れるフランチェスカに、クライヴは苦笑を漏らす。確かにそうだ。レイチェルが頷いてくれたおかげで、今があるのだから。
途切れる事なくダンスに誘われるレイチェルの、夫として側にいられる幸運を。この先も幾度となく、噛み締めていたい。
そのために、隣にレイチェルがいてくれなければ、何も始まらない。
クライヴは立ち上がり、庭を見下ろせる窓際に立つ。冬薔薇が咲き乱れる庭を、レイチェルはまだ目にしていない。レイチェルを驚かそうと思い、密かにジャックに頼んでいたのだ。
「レイは、薔薇のようだと思わないか?」
「どうしたの、急に」
「美しく優雅で気品に溢れ、儚げに見えて力強く咲く、レイが好きな、あの白い薔薇のようだ」
「私はここにいる、っていう花言葉の薔薇ね」
「その花言葉は初めて知ったな」
「私もレイに教えてもらったのよ」
ふふ、と笑って、フランチェスカは昔を思い出す。あれはまだお互いに子供だった頃。そして、初めて会った日の事である。
フランお姉さま、と可愛い声で言いながら後をついてくるレイチェルに、フランチェスカはすっかり魅了されていた。
庭を案内してあげて、という姉の言葉に喜んで頷き、小さな手を繋いでレイチェルと庭に出た。そこでレイチェルが薔薇が好きだと喜んでいたから、摘んであげようと思ったのだ。
その時、薔薇の棘で指を切ってしまい、棘が無ければいいのに、と溢したフランチェスカに、レイチェルは言った。
『フランお姉さま。わたくしは、棘があるから、薔薇は美しいのだと思います。この白薔薇だって、棘が無かったらただの白い花にしか見えません。でも、この薔薇の花言葉は、私はここにいるっていうのですって。小さくて他の花に埋もれてしまうけれど、他の薔薇と同じように棘があって、自分は薔薇でちゃんとここにいるんだよ、って言っているのです。だから、わたくしはこの薔薇が好きです』
と。




