ルビーのような
「……レイは今、家出をしている」
家出という表現を使ったのは、出ていったということを認めていないからだ。たとえ望まない答えでも、本人の口から理由を聞くまで、クライヴに認める気はない。
フランチェスカは一瞬驚いたが、すぐに呆れた表情になる。
「何か怒らせるような事を言ったんでしょ。レイが家出なんて、よっぽどだわ」
「ここ数日で変わった様子は無かったのだがな。楽しそうに笑っていたし、プレゼントも喜んでいたし。あぁ、ただ……」
クライヴの脳裏に、あの夜のレイチェルの姿が思い浮かぶ。最後に覚えているのは首筋に走った痛みと、血を飲まれているという感覚。そして、煌めく深紅の瞳の美しさ。
このルビーのような紅の輝きを、きっとこの先も忘れる事は無いのだろう。そう思いながらクライヴは、意識を手放した。
思えばあれは、怒っていたと考えられなくもないな、とクライヴは心中で呟く。他で血を摂っているのではないかと、いもしない相手に嫉妬して疑ってしまった事に対する、意趣返しか。
しかしそれなら、とっくの昔に出ていっているはずだ。何故今になってなのかが、クライヴには分からない。
考え込むように黙りこんだクライヴに、フランチェスカはため息を吐く。考えすぎてしまう事が、クライヴの悪い癖だ。
「あなたは大事な事ほど、中々口にしないわよね。私に告白をしてきた時だって、婚約する直前だったもの。まあ、早くても返事は同じだったでしょうけど」
「手厳しいな。だが、そのおかげでレイと出会えた。彼女はかけがえのない、ただ一人の女性だ。母上に肖像画を見せられた時は、まったく興味無かったのだが。縁とは不思議なものだな。こうなる事は、初めから決まっていたのかもしれない」
「はいはい」
惚気るような事を言うクライヴを、フランチェスカは軽くあしらう。レイチェルを愛してくれているのは嬉しいが、本人がいないのでは意味がない。
再びため息を吐いてから、そういえば、と思い出したように手を叩いた。
「あなたたちの馴れ初めを聞いていないわ。せっかくだから聞かせてちょうだい。最初から、レイがヴァンパイアだって知っていたの?」
「お前も知っていたのか」
「まあね。それで?」
「……最初に興味を持ったのは、噂を聞いたからだった」
そうクライヴは口火を切って、話し始める。あの時はまさか、こんなにもレイチェルを愛するようになるとは、思ってもいなかった。
以前レイチェルにも話したように、本当に、ただの興味だったのだ。




