しょうがないことに
「……そのヴァンパイアというのは、どういう方でしたか?」
クライヴに問われて、またも夫人は首を振る。
「それが、よく覚えていないのです。話した内容は覚えているのですが、顔を思い出そうとすると、急にぼんやりして。ただ、綺麗な人だったとしか。名前も知りません。レイチェルも、鳥籠での事は話してくれなかったので」
「そうですか。ヴァンパイアにはそういった力がありますからね」
「それはもちろん、レイチェルにもですよね?」
言わない方が良かったか、と後悔するクライヴだったが、もう遅い。苦笑しながら素直に頷くと、夫人は少し悲し気に笑った。
「彼女の場合はそれほど強くはないようですが、少し記憶を曖昧にするくらいは出来るそうですよ。でないとすぐに露見してしまう、と話してくれました」
「……あの子は、そういう事も教えてくれませんでした。だから、いつも夜会に行くときは心配でたまらなかったのです。もしヴァンパイアである事を知られたら、酷い目にあうのではないかと」
「噂はありましたけれど、誰も本気にはしていませんでしたね。この国ではよくある話です。あなたに話さなかったのは、心配をかけたくなかったからなのでしょうが」
話さない事でむしろ心配をかけていたとは、レイチェルは思っていないだろうけれど。そんなクライヴの言葉に、夫人はそうですねと笑みを浮かべる。
彼、もしくは彼女はヴァンパイアなのではないか、という話題はよく人々の口にのぼる。大抵が悪口雑言で、比喩表現として使われることが多い。中には本当もあるが、信じる者が果たして何人いるか。
クライヴの場合は、一先ず探りを入れてみるが。レイチェルの時のように。違ったら違った時に考える。その時を思い出して、クライヴはちょっと笑ってしまった。
「私は彼女がヴァンパイアだと思わなければ、きっと声はかけなかったでしょうけど」
「侯爵様。あなたは私と同じく、いえ、それ以上に、レイチェルを愛しているのですね」
「隠してるつもりもないですが、そんなに分かりやすいですか?」
「あなたのその顔を見ればわかります。しょうがないことに、あの子は気が付いていないのでしょうけれど」
肩を竦めた夫人に、クライヴは苦笑を返す。気がついていないのは、自分が口にしていないから、という理由もあるのだ。
「もう一度会えたら、きちんと伝えますよ」
この人なら、きっとそれを成し遂げるのだろう、と夫人は思う。
だからか、結婚の挨拶に訪れた時は言えなかった事を、口にする事が出来た。
娘をよろしくお願いします、と。




