願い事
ぱちぱちと火の爆ぜる音が微かに届く場所で、レイチェルとクライヴは並んで立っていた。夜空へ飛んで行く火の粉が、幻想的な雰囲気を醸し出している。
炎は浄化。これまでのすべての負を浄め、打ち払い、実りへの感謝と共に、また新たな希望への種とするのだ。
だからこそ、誰もが声を押し殺して真剣な表情で、祈りが込められたその篝火を見つめているようだった。
ただ、同じように真剣な表情をしているレイチェルの場合は、どちらかといえば、最初で最後になるであろう光景を、その目に焼き付けている、と言った方がしっくりくるかもしれない。
「綺麗……」
「もう少し近づくか?」
静寂の中、ポツリ、と思わずもれた言葉にクライヴは首を傾げる。レイチェルは小さく首を振った。
そして近くには他に誰もいないのに、この静けさを壊したくないからか、囁くように口を開く。
「いえ。火は、苦手なので」
「すまない。そうだったな」
すぐに謝られて、レイチェルは苦笑する。クライヴはいつも、自分に非があると思った時は、素直に謝罪を口にしていた。
この場合、元人間のヴァンパイアは火に弱い、という事を知っているにもかかわらず、近付くかと口にした事を反省しているのだろう。
その気づかいも優しさも、すべて、置き去りにしようとしているのに。
「ご自分でお調べに?」
「ああ。だが人間も同じだからな。それもそうか、と思っただけだった」
「元は人間ですもの。普通のヴァンパイアは、あれくらいの炎もそよ風でしょうけれど」
「……だが、時には恐ろしいものも、こうして見るとやはり美しいな。来年も実り豊かな年になるといい」
「そうですわね」
「ああ、そういえば。願い事をすると叶うらしいぞ」
「どこでも聞く話ですわね。けれど、願うならば……」
冷めた事を言いながらも、レイチェルは目を閉じて胸の前で両手の指を絡ませ、祈りの姿勢を取る。
レイチェルが願いたい事といえば、ただ一つしか無かった。
(クライヴ様がいつまでも健やかで、長生きできますように)
例えそこに、自分がいなくても。
「何を願ったんだ?」
目を開けたレイチェルに問いかけたクライヴだったが、レイチェルは微笑みを浮かべて首を振る。
「内緒ですわ。クライヴ様は?」
「俺も内緒だ。さあ、帰ろう。そろそろジャックが迎えに来る」
手を差し出されて、自然とレイチェルはその手に自分の手を重ね、少し強く握る。クライヴは少し驚いたようだったが、柔らかく笑ってそのまま歩き出した。




