笑い声をあげて
夜の帳が下りた頃、レイチェルとクライヴは町を訪れていた。町の夜はまた、昼間とは違った賑わいを見せている。
普段は午後6時には店を閉めるという商店街も赤々と明かりが灯り、楽し気な笑い声が響いていた。
特に、駆け回る子どもたちの元気なこと。暗くなっても外に出られることが、よほど嬉しいのだろう。あまり遠くへ行かないでね、と言う親の言葉も聞いているかどうか。
最終日であるその日の夜は、前日にレイチェルが劇を見た中央広場では篝火が焚かれ、吟遊詩人が歌を歌っていた。
他の観客と同じように、クライヴとレイチェルも寄り添って座り、恋や冒険の歌を聞く。力強く瑞々しく、切なく悲しく、楽しく朗らかに、物語を紡ぐ声は魔法のようだ。
老若男女を問わず、リュートの妙なる調べと美しい声に聞き惚れ、想像の翼を自由に広げる。
やがてそれが終わると、楽士が奏でる音楽の元、ダンスが始まった。舞踏会の時のダンスとは違い、皆てんでバラバラにステップを踏み、くるくると回っている。
それでも楽しそうなその様子を、しばらく二人とも眺めているだけだったが、おもむろにクライヴは立ち上がると、レイチェルの手を引いた。
「レイ。俺たちも踊ろう」
そのキラキラと輝く笑顔は、まるで初めての祭りにはしゃぐ子どものように見えた。
「え?でも……、どうやって……」
「ステップなんて気にするな。楽しめばいいのさ」
躊躇っていたレイチェルもその言葉に笑みを浮かべて、手を引かれるままに立ち上がった。
領主様と奥方様が踊るようだぞ、と誰かが囃し立てる。輪の中に入れば、笑顔と共に歓迎された。この町では、領主と民などという括りは存在しないかのようだった。
二人は、周りと同じように高らかに靴音を鳴らし、くるくると踊る。笑い声をあげながら、楽しそうに。疲れ果てて踊れなくなるまで、クライヴと、ある時はまったく知らない人と。
この時ばかりは誰も、レイチェルの体温など気にしない。レイチェルもそれを分かっていたから、最初は遠慮がちだったものの、思いきり楽しんでいたのだ。
レイチェルもクライヴも、少し寒いくらいなのに汗をかいて、綺麗にしている髪も乱れていて、お互い顔を見合わせて笑う。
このダンスが終われば、三日三晩続いた収穫祭もフィナーレを迎える。場所を少し移し、開けた場所に設置された大きな木組みの中に、次々と松明が投げ込まれていく。
巨大な篝火は、今年の実りへの感謝と、来年の実りへの願いが込められている。




