誕生日おめでとう
収穫祭の最終日になると、それまで収穫量を計算し、国王への献上などの采配で忙しく働いていたクライヴも落ち着く。
当日の朝、レイチェルが食堂へ降りると、クライヴは新聞を広げていた。煌めく朝の光を背にして新聞を読みながら、時折カップを口元に運ぶ。
(しばらく眺めていたい光景だわ)
思わずそう思ってしまうくらい、真剣で凛々しい横顔をしていた。その横顔を見られるのも、きっと今日が最後だろう。
レイチェルは実際に数十秒ほど見つめてから、微笑みを浮かべて声をかけた。
「おはようございます。クライヴ様」
「ああ、おはよう。今日もいい天気で良かった。去年は雨だったからな」
顔を上げ、クライヴは笑みを浮かべながら挨拶を返し、新聞を畳んで脇に置く。それから、隣の席に置いていた包みを手に取り、レイチェルに差し出した。
「レイ。これを」
近くに寄り、受け取ったレイチェルが首を傾げると、開けてみてくれ、と促す。丁寧に包みを開けて広げてみれば、それは紺色の、フードがついたケープだった。
布地はベルベット、腰くらいの長さで、精緻な刺繍が施されている。前を留めるボタンが、薔薇の形をしているのも可愛らしい。
「まあ、素敵。手触りもいいですし、それに温かそうに見えますわ」
早速羽織ってみせるレイチェルを、クライヴが眩しそうに見つめている。喜んでくれたようで良かった、とほっとしていたのだ。
贈り物をする者にとって、その笑顔が何よりものお返しになる。クライヴがそれを知ったのは、いつの頃だっただろうか。
「まぁ、レイには必要ないかもしれないが、これから、夜はますます冷えるからな。薄着では見ているこちらが寒くなりそうだ」
「季節感は考えていますが、勘違いされて、妻にケープも買えない、なんて思われてはいけませんものね」
「その通りだ。誕生日おめでとう、レイチェル」
クスクスと笑っていたレイチェルは、その言葉に驚いて目を見開いた。確かに今日のこの日が誕生日当日だったけれど、これまでそんな話しはたぶんしていない。
クライヴの誕生日も、エディの口から聞いたくらいで、慌ててプレゼントを用意したのだから。
「ご存知だったのですか?」
「伯爵夫人にこっそり聞いた」
照れくさそうに笑って言ったクライヴに、レイチェルは泣きそうな顔で笑って、ケープをぎゅっと抱きしめる。
「ありがとうございます。大事にしますわ」
そう言って微笑んだレイチェルに、クライヴは満足げな表情を浮かべていた。




