あれは何かしら
アッシュベリー侯爵家3人目の使用人ジャックは、クライヴと同い年で幼い頃から侯爵家に仕えている。男兄弟のいないクライヴとは、兄弟同然で育った。
癖のある栗色の髪と丸い瞳。そばかすのある頬が、年齢より若く見せている。背はひょろりと高く、目端が利き、少年のようにとてもよく笑う。
だからだろうか。レイチェルにとって気安い同行人であり、従来の知り合いかのように、すぐに打ち解けたのだった。
そうして早速、朝も早くから町へと繰り出した。そんな二人を送り出したクライヴは、まるで兄妹のようだな、と苦笑したものである。
「ねえ、ジャック。今度は向こうに行ってみたいわ」
「いいですよ、レイチェル様」
アッシュベリーの町、アーネスト・タウンはこぢんまりとした町である。中心に聖堂と広場があり、そこから碁盤の目状の通りが広がる。
ちなみに町の名は、初めてこの地を開拓し、初代アッシュベリー侯爵となったアーネスト・ファウラにちなんだとか。直系ではないが、一応クライヴの先祖に当たる。
しばらくあてもなく散策していたレイチェルが、次にジャックに提案したのは、商店が多く立ち並ぶ通りだった。
収穫祭のこの時期は通常の二倍は人がいる、というジャックの言葉通り、通りは人でいっぱいだ。皆思い思いに歩き、店先を覗いたりしている。
花屋の店先には、赤、黄、紫、青、色とりどりの花が咲き乱れ、明るい売り子の声が響く。雑貨屋の前には不思議な置物があったり、洋服店では女性たちが笑顔で買い物をしたりしている。
レイチェルもいくつかの店を見て、薔薇の髪飾りを買い求めた。歩きながら何を買ったのか聞かれると、レイチェルは袋から取り出して、ジャックに見せる。
するとそれを見たジャックは、楽しそうな笑みを浮かべて言った。初めて会って少ししか経っていなくても、レイチェルの好みは把握していた。
「レイチェル様は薔薇がお好きですよね。クライヴ様が持っていたチーフの薔薇の刺繍は、レイチェル様がしたと聞きました」
「ええ。薔薇は好きよ。特に白い薔薇が。でもあの刺繍は、クライヴ様に似合うと思ったからなの。そう思わない?」
「何となく分かります」
ふふ、とお互いに笑ったところで、レイチェルが少し先の店先で足を留めた。
「見て、ジャック。あれは何かしら。何を作っているの?甘い香りがするけれど」
「ああ。待っててください」
そう言ってジャックはその店へ寄り、少しして戻ってくると、レイチェルに持っていた物を渡す。




