悲し気に
「レヴィ……!どうしてここに?」
「君たちが心配でね。様子を見ていたんだ」
「わたくしは……」
「その癖、直っていないんだね。そんなに唇を噛み締めたら、すぐ血が出てしまうよ。僕らの牙は鋭いんだから。ほらね」
唇を噛み締めたレイチェルに微笑みながら言って、唇の端から溢れた血を親指で拭い、ペロリと舐めた。
その顔が、僅かに悲しげに歪む。
「……最近、血を飲んでいないよね?」
「飲んでるわ」
「そうじゃなくて。レイが一番欲しいと思っている血だよ。じゃなきゃ、渇きは癒されても、満たされはしない」
「……だって、怖いの」
「何が怖いの?僕に話してごらん」
レヴィはレイチェルの隣に座ると、その肩を抱き、諭すように言う。それに勇気付けられたレイチェルは、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
「彼の気持ちを知るのが。わたくし……。今までは平気だったのに、今あの人の血を口にしたら、何が見えるのか。教会からもさんざん言われているけれど、どうしても、怖くて出来ないの……」
両手に顔を埋め、嘆くレイチェルの背をレヴィが優しく撫でる。
「そっか。血を通して、彼が自分をどう思っているか、知りたくないんだね。彼が好きだから」
ヴァンパイアは、血によって感情を読める。だがそれは、意識しなければ出来ない。
しかし今のレイチェルは、無意識に読み取ってしまうだろう。想いが強すぎて。
レイチェルもそれが分かっているから、クライヴの血を飲むことを止めたのだ。
「……ええ。でも彼にとってわたくしは、ただの知識欲を満たす為の存在でしかない。さっきなんて、こんなに彼の血が欲しいのを我慢しているのに、他で摂ってるんじゃないかって疑われたのよ。こんなの、苦しいだけだわ」
「可哀想に。こうなるのが嫌だったから、本当は、人間の元に返したくなかったんだ。結婚して、幸せになって欲しかったのも、本当だけどね」
「レヴィ。わたくし、もう、クライヴ様の側にいたくない」
震える声で告げたレイチェルの顔を、レヴィは覗きこむ。また泣いているのかと思ったが、レイチェルはもう、泣いてはいなかった。
「それでいいの?」
「だってこのまま一緒にいたって、彼はわたくしを置いていくのよ。そんなの耐えられない。それならいっそ、遠く離れてしまいたい。今なら、きっとまだ間に合うわ」
何が、とはレヴィは聞かない。少し悲しげに微笑み、頷いた。
「うん。分かった。お別れしておいで。本当にレイがそれを望むのなら。そうだな、七日間。それで変わらなければ、鳥籠に帰って来るといい」
「……ええ」
レイチェルが頷くと、レヴィは微笑んで立ち上がる。そしてレイチェルの頭を撫でて、来た時と同じように、風のように去っていった。




