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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
黄昏は泡沫のように、儚げに
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必要ありませんわ

「──今日もいらないのか?」


そう言って首を傾げるクライヴの腕から、血が滴り落ちている。レイチェルはそれを決して見ないように、その血の抗いがたい香りを退けるかのように、あくまでもそっけなく答えた。


「必要ありませんわ。早く手当てなさったら?」


出がけに、いつものように談話室にいたレイチェルの元をクライヴが訪れたのは、30分程前だっただろうか。しばらくは、そろそろ領地へ行くという話をしていたのだが。


体調が悪い、という理由をつけては自分の血を飲まないレイチェルに、自ら腕を切ったのである。何故そんな行動をとったのか、まったく分からなかったレイチェルは内心動揺していたが。


「まさかとは思うが外で……」


つい口にした、といった問いかけに、レイチェルは頭にきて、持っていた本を勢いよく閉じた。バタン、という乾いた音が部屋に響く。


(なんて事!)


クライヴのその言葉は、レイチェルを深く傷つける言葉だ。侮辱されたにも等しい。レイチェルだけではなく、すべてのヴァンパイアを。


「いいえ。わたくしを疑うんですの。教会からの血はいただいていますし、それに言ったはずですわ。血はただの嗜好品だと。それとも、わたくしが夜な夜な血を貪るような、低俗な女だとでも?」


まさか本当にそう思っていたのか、と泣きそうになりながらも、クライヴをきつく睨み付けた。


フランチェスカと話して、泣いてすっきりしたおかげで、新たな気持ちで過ごそうと思っていた矢先に。レイチェルは、自分の心がひび割れる音を聴いたような気がした。


一方のクライヴは決まり悪そうに視線を反らし、腕に包帯を巻いていく。


「……いや。すまない。俺としたことが、無駄なことを聞いた」

「いえ。そろそろ出ないと、遅刻しますわよ」

「ああ。留守を頼む」

「行ってらっしゃいませ」


再び素っ気なく答えられ、クライヴはもう一度謝罪を口にしてから、苦笑しながら出ていった。


扉が閉まって足音が遠ざかると、レイチェルはソファに崩れ落ちた。その目から、我慢していた涙が溢れてくる。


疑われた事が悲しくて、同時に悔しくて。


「……どうしてっ」


今まで一緒に暮らしていたのに、自分を信用していないのか、とレイチェルは泣きじゃくる。まるで子供のように。


「また泣いているんだね。僕の可愛い小鳥は」


唐突にそんな声が聞こえて、レイチェルは文字通り飛び上がった。いつの間にか、ソファの側にレヴィが立っている。


どうやって入って来たのか、なんて聞いても無駄だ。レヴィの前には、例え家中の鍵をかけていたとしても、それはあって無いようなものなのだから。


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