覚えてる?
「ですがわたくしは、クライヴ様の妻になどなるべきでは無かったのです」
「どうして?あなたが人間では無いから?」
「それは……」
思わず俯き、そうだ、と頷こうとして、はたと気がつく。顔を上げれば、フランチェスカがきょとん、と首を傾げている様子が目に入る。
「何故知って……、いえ。何の事か」
すぐに誤魔化そうとしたが、もう遅かった。ふふふ、とフランチェスカは笑う。
「今さら誤魔化したって遅くてよ、可愛いレイ。あの日、あなたがクライヴと結婚して初めて出た夜会で、私、あなたの腕を組んだわ。覚えてる?」
そう聞かれて、レイチェルは首を横に振る。慣れ親しんだ行為すぎて、気にも留めなかった。
腕を組んだならば気がつくはずである。レイチェルの体温に。夏は特に気をつけているのに、というレイチェルの後悔も先に立たず。
「……いえ」
「私は覚えてるわ。だって、あまりにも冷たくてびっくりしたんだもの。だけどね、あなたもクライヴも何も言わないから、聞くことはやめたのよ。気のせいだったかしら、とも思ったから。でもどうしても気になって、後日お姉様に聞いたわ」
「お母様が……」
「怒らないであげてね。私が無理に聞いたの。初めは誤魔化していたけれど、聞くまで帰らない、って言ったら教えてくれたわ。あなたが姿を見せない間、何があったのか。大変だったのね」
「お母様から、病気で伏せっている事にした、と聞きました。だからわたくしも、公の場ではそう答えるようにしていましたわ」
「そうね。私も心配で、何度も訪ねたのよ。だけど会わせてもらえなくて。でも当然よね。二年間、あなたは伯爵邸にはいなかったんだもの」
その通り、とレイチェルは苦笑する。
その頃はレヴィの鳥籠で、ヴァンパイアとして生きるための、様々な事を学んでいる最中だった。今でも、優しい顔をして厳しいレヴィの教育を思い出せる。
「婚約解消した後の一年は、誰とも会いたくなくて、お断りした事もありましたけれど……。それでも叔母様は来てくださっていたのですね」
「当たり前でしょう。さすがに三年も会えなければ心配するわ。でもこの二年は私も色々あって、あの夜会で会うまで、レイとは会えなかったわね。それはごめんなさい」
フランチェスカが妊娠中、そしてその後の体調不良で、しばらく社交を遠慮していた事は、レイチェルも知っている。
だからその間の、遊び歩いていると噂されていた自分を見られなくて良かった、という安堵の気持ちがあった。




