可愛いレイのため
マクレナン子爵邸は中心街のやや外れに建つ、白亜の建物だ。レイチェルはすぐに執事に出迎えられ、客間へと通された。
それから少ししてフランチェスカが姿を見せ、笑顔でレイチェルを歓迎する。
「いらっしゃい。手紙をありがとう。貴女が訪ねて来てくれるなんて嬉しいわ」
「すみません、叔母様。突然……。迎えも用意していただいて」
「いいのよ。可愛いレイの為だもの。主人も子供たちも揃ってお出かけなの。まぁ私が頼んだんだけれどね」
「そんな、わざわざ」
「だってゆっくり話したいかと思って」
ふたりがそんな挨拶を交わしている間に、テーブルには紅茶と軽食が用意されていた。
揃って腰を落ち着け、しばらく他愛もない話をしていたが、沈黙がおりたところで、フランチェスカが口火を切る。
「それで、聞きたいことって?」
「……クライヴ様のことで」
「あぁ、分かったわ。私たちの関係が知りたいのでしょう?」
「どうしてお分かりに?」
レイチェルは驚いて尋ねる。そう、今日はそれを聞くために来たのだ。
自分の想いを自覚してしまって、真っ先に思い出したのが、親しげに話すクライヴとフランチェスカの姿と、クライヴが寝言でフランチェスカの名前を呼んだこと。
二人は本当に、ただの幼馴染だったのだろうか。ふとした瞬間に、その疑問が思い浮かんでしまう。
それをいつまでも、一人でもやもやと考えてしまうレイチェルは、ついにフランチェスカに会って聞いてみよう、と勇気を出したのだ。
目を丸くするレイチェルに、フランチェスカは可憐に笑う。
「昔ね、主人にも聞かれたの。元恋人なんじゃないかって。確かに、彼に好きだと言われたことはあるけれど……。ああ、そんな悲しそうな顔をしないで。昔の話よ。私にとって彼は、ただの幼馴染みでしかないわ。彼だってそうだと思うわよ?」
「……そうですか」
安堵した様子のレイチェルに、フランチェスカは柔らかな笑みを向けた。微笑ましそうに、温かな瞳をしている。
「懐かしいわね。私も結婚した頃は、主人が女性と話す度にやきもきしたものよ」
「叔母様が?」
「ええ。だけどね、子供が生まれてからは、そんなこと思う暇もなくて、今では笑って思い出せるわ。あんなことで悩んでいたなぁ、なんて。貴女もきっと、そう思えるようになるわ。だから大丈夫よ。クライヴを信じて。過去はどうあれ、彼が貴女を選んだのでしょう?」
「わたくしは……」
選んだわけでは無い、とレイチェルには言えない。あの時、たまたまあそこにいた女性のヴァンパイアが、自分であったというだけ。もしあの日、あそこにいなければ、出会う事は無かった。
それは確かだ。
だからこそ、胸が苦しいのかもしれない。自分の気持ちに気づいてしまった、今となっては。




