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侯爵様はヴァンパイアを妻にお望みのようです  作者: リラ
再会は春嵐のように、凄絶に
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あなたとはちがう

ディックは、自分の思い通りにならないレイチェルに、苛立って舌打ちをした。生意気な女ほど、ディックの嫌いなものは無い。


だからこそ、新しい婚約者が見つかっていないのだが、本人はまったくそんな事には気が付いていなかった。


「侯爵も物好きだな。こんな女と結婚するとは。さすが変人と呼ばれるだけはある」

「確かに変わった人だけれど、あなたにそう言われる筋合いは無いわ。優秀なあなたのお兄様と違って、次男のあなたなんてただのスペアでしかないんだから!」


叫んだレイチェルに、ディックは無表情でその手を振り下ろした。それはレイチェルが思わず尻餅をついてしまうほど強く、口の中が切れたほど。


それでもレイチェルは、きっ、とディックを睨みあげた。


「……っ、何するのよ!」

「それはこちらの台詞だ。僕を侮辱するとは、いつからそんなに偉くなったんだ?あの日も、僕から逃げようとして」


蔑むように見下ろしてくるディックを見上げながら、唐突に思い出す。あの日レイチェルは街に出かけ、そこでディックの姿を見つけたのだ。


目が合って、咄嗟に逃げようとしたレイチェルに、運悪く暴走馬車が突っ込んできたのである。それを見られていたのなら、ここにいるレイチェルをヴァンパイアなのではと疑ったとしても無理はない。


とはいえ、あの時の見物人たちは、事故に合った女性の事など覚えてはいないはずだ。加えて、夫人が死亡届を出すのを嫌がったため、公的な資料にもレイチェルが事故に合ったという記録は、どこにも残されていない。


つまり、ただのディックの思い込みに過ぎないと言えば、この状況を父親である男爵に訴える事は可能だろう。


「まさか、化け物になってまで戻ってくるとは思わなかったがな。それほどまでして生きたかったのか。化け物と結婚するなど、あの侯爵も愚かだな。……いや待てよ。見た目はあの日のままか。永遠にそうなのだとすれば、侯爵はそういう趣味があるという事になる。ますます物好きな」


その言葉を聞いた瞬間、気が付くとレイチェルは、転がっていた日傘を手に取り、ディックに向かって投げつけていた。


日傘はディックに見事命中し、地面に落ちる。日傘の先が触れたのか、ディックは顎の下あたりに手をやりながら、罵りの言葉を吐いた。


「あの人を侮辱する事は、わたくしが許さない!」

「……お前になど許されたくもないがな」


先ほどよりも冷え切った瞳で、まるで害虫でも見るように見下ろされたが、レイチェルはそれくらいではもう怯まない。


「あの人はあなたとは違うわ。あなたのように、女性に手をあげたりしない。あなたのように、人を馬鹿にしたりしない。あなたのように、低俗で愚かな人じゃないわ!」


レイチェルの言葉を受け、再び手が振り上げられる。咄嗟に目を瞑ったレイチェルの耳に、そこまでだ、という声が聞こえた。


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