苦笑も消え去る
周りを見渡して見れば、それぞれ輪を作り、楽しそうに過ごしている。日が高くなったら室内へ移動して食事を取る事になるが、それはまだまだ先の事。
王妃も嬉しそうに、パラソルの下に設置された席で、優雅に微笑んでいた。
「そういえば、エイヴリー伯爵ご夫妻はいらっしゃらないわね」
同じように周りを見渡して、不思議そうに言ったアリシアに、レイチェルは笑みを浮かべる。
「ええ。お父様とお母様は、いつも早めに領地へ行くんですの。ですからきっと、何か差し入れているかと思いますわ」
エイヴリー伯爵領へ向かう途中に大きな川があるのだが、例年夏の終わりから雨が降り続いて増水してしまう為、移動には今の時期が一番適しているのだ。
それがある為王妃の招待を断ったとしても、御咎めなんてものは無い。王妃の方も事情を知っている筈だから、招待状は送っているだろうが、それは儀礼的なものに過ぎないだろう。
もっと遅くに移動できなくもないが、事故に合っては元も子もないと、陛下のお墨付きも頂いている。レイチェルがもはや好きになれない父も、宮殿ではそれなりに信頼されているのだった。
「そうなの。ねえ、あちらにいらっしゃるご夫人をご存知?先日、レース編みで王妃様から直接お褒めいただいたそうなの。確かに素晴らしい腕でしたわ。あちらにいらっしゃるのは、アルトワ辺境伯ね。久しぶりに姿を見たわ。それからあちらには……」
まるで洪水のように、レイチェルが苦笑するのもお構いなしで、アリシアは喋り始めた。こうなると止まらないのがアリシアだ。
これは気が済むまで待つしかないわ、と苦笑しながらも聞いていたレイチェルだったが、次にアリシアが目を向けた人物に、その苦笑も消え去った。
しかしアリシアは、レイチェルのその変化には気が付かない。さすがのアリシアも、彼がレイチェルの元婚約者だと知らない様子だ。
「あ、見て。あれは確か、ボルトン男爵の子息のディック殿ではなくて?」
「……そう、ですね」
「最近は公の場を遠慮していたようなのに。それに今日は、爵位を持つ方かそのご夫人しか招待されていないはずだけれど。そういえば、数年前に婚約解消したとか……」
「アリシア様。わたくし、薔薇園の方を見てきたいのですが、よろしいですか?」
遮るように言ったレイチェルだったが、アリシアは特に気にした風もなく、笑って頷く。
「そう?じゃあ私は、向こうの方々にも挨拶をしてくるわ。またあとでね」
何とか笑顔を浮かべてアリシアを見送ったレイチェルは、まるで人目を避けるように、静かに薔薇園の方へ向かった。




