行ってみたい
そんなレイチェルを知ってか知らずか、クライヴは明るい調子で言葉を紡ぐ。今日のクライヴ様は上機嫌だわ、とぼんやりと思いながらレイチェルは見つめていた。
「領地の方へ帰ったら逆に退屈で、時間が長く感じるかもしれないが、のんびりするのもいいだろう。美しいアッシュベリーを、そなたも気に入るといいのだが。冬は厳しいが、雪景色が素晴らしいぞ」
「……ええ。きっと気に入りますわ。早く行ってみたいものですね」
それは本心からの言葉だった。アッシュベリー侯爵領は穀倉地帯の広がる、長閑な地区だ。人々も穏やかで、緩やかな時間が流れる場所。
秋の収穫祭が唯一の祭りと聞くが、そこで焚かれる篝火が大層美しいと聞く。叶うなら、いつか行ってみたいと思っていたのだ。
レイチェルの返答に、クライヴは安堵したように笑い、思い出したかのように言う。
「そうだ。伯父上、いや、陛下に挨拶をしてくる。今日はこちらにいらしているらしい。レイチェルはここで待っていてくれ」
「よろしいのですか?」
自分も行かなくて、というよりは、そんな事していいのか、という気持ちで問いかけた。まるで抜け駆けのような行為が、許されるのか、と
クライヴもそれを解っているのか、笑って頷く。
「甥という立場であれば許してくれる。先日遠慮して挨拶をしなかったら、何故来なかったのだ、と叱られてしまってな。陛下は家族を大切にされるお方だ。他家に入ったとはいえ、兄弟とその子供の事を気にかけてくださる。俺の場合、遺された子供だからな」
前侯爵と夫人は、すでにこの世にはいない。それを若くして継いだ甥を心配するのは、国王であろうと同じ。
レイチェルは、自らの憂いを感じさせぬように笑って頷いた。
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる。動くなよ」
念を押されたことに苦笑しながら、クライヴの姿を見送った。
今日のガーデンパーティは、最初の王妃の挨拶が終われば、後は自由にしてよいとされている。女性は会話に花を咲かせるもよし、男性はゲームをするもよし。薔薇園を散策してもいいし、湖にボートを浮かべてもいい。
クライヴ様はどうするかしら、と考えながら何とはなしに視線を滑らせて、そのまま動きを止めた。
今まさに、向こうから歩いてくる人物を、凝視してしまう。今すぐここを離れたい、と思ったが、それに反して足が動かない。
そうこうしているうちに、向こうも気がついたのか、笑いながら近づいてきた。




